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豆腐を買いに

子供のころ、実家のある小さな村にも二、三件はお豆腐屋さんがありました。
もしかしたら、私の“はじめてのお使い”は
お豆腐屋さんへ豆腐を買いにいくことだったかもしれません。
一番近いところは斜め向かいのお家でした。
そこがお休みの日は、道筋の角まで行ったところまで、
小銭と小さなお鍋かボウルを持って買いに行ったものでした。

うちの田舎は北アルプス立山連邦の雪融け水が涌き上がる地域で、
どのお宅も水は地下の水脈からポンプで家ごとの蛇口に汲み上げるものでしたから
どんな暑い夏でも、それはそれは冷たい水が出るのですが、
お店を入ったところの、つねに満々と水がたたえられたおおきな水槽(?)に、
その日出来上がった白くて大きな塊があって、
注文を伝えると(たいがいは絹ごしの一丁か二丁ですが)
黒くて薄いゴムの前掛けをしたおじさんがその水槽に手を入れ
塊のひとつから必要な分を包丁で切って
持っていったボウルや小鍋に入れてもらったものでした。
(子供心にもそのゴムの前掛けはなんとも合理的に思えて、
自分も水遊びするときに欲しかった記憶があります)

それがいつしか一軒、また一軒と徐々に姿を消し、
私が高校生になるころには、お豆腐は村のうちのよろず屋さんや
町のスーパーで買うものになってしまいました。

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かつてどこの村や町の片隅にあったお豆腐屋さんこそは
昭和のひところには絶滅危惧種みたいなお商売のひとつだったのだなあと
なくなってしまってから、その小商いの風情を懐かしく思い出すのでした。

もちろん、いまもコツコツとお商売をやっていらっしゃるお豆腐屋さんが
全国のまだどこかにあるに違いありません。
そんなお豆腐屋さんがもしもうちの近所にあるなら、ぜひ一丁買って帰って、
こんな暑い日のお昼や夕飯のおかずにして食べたいものだなあと思います。


「豆腐を買いに」©Tomoko Okada

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by team-osubachi2 | 2018-07-23 08:15 | 人を描く

水遊び

連日猛暑の日本列島。今日は祝日「海の日」です。

ある統計によれば、海水浴する人口は年々減っているのだとか。
でも、こんな連日の猛暑では、海や川辺での水遊びは
子供たちにとってはなんとも愉しいものだと思いますが、
日焼けしたくないこと(はっきり言ってしまえば大人の思惑ですが)と、
海水がべたつく不快感だとか、いくつかの要因があるそうです。

私も子供のときの水遊びはたまらなく好きでした。
とはいえ、村の横丁を流れる黒部川に入る事は禁止されていましたし
家の裏手の日本海は遠浅どころか、富山湾は一気に深く落ち込む海で
海面から30cmほどから下は北アルプスの雪溶け水が注ぎ込む冷たい海水でしたから
せいぜい岸辺のテトラポットが形成した水溜まりで遊ぶか、
うんと遠い学校のプールへ行くかしかありませんでした。
めちゃくちゃ暑い日は、家の玄関先に空気を入れて形成する簡易式のプールでもいい、
足が砂だらけになってもいいから、水遊びをしたかったものでした。


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子供でいたとき、時間は無制限のように長く感じられ、
自分はいつまでたっても子供でいられるような錯覚がありましたけど
子供が子供でいられる時間はごく限られています。
暑い夏には、海だけでなくていいですから、おおいに水と遊んで欲しいものです。
ただし、泳げる場所をよくわきまえて、どうぞくれぐれもご安全に。

「水遊び」©Tomoko Okada

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by team-osubachi2 | 2018-07-16 14:51 | 人を描く

露を集めて

明日は年に一度の星祭り、七夕さま。
私の郷里では聞いた覚えがないのですが、大人になって知ったことには、
なんでも里芋の葉の上にころころと溜まる露で墨を摺り手習いすると
字が上手になるという言い伝えがあるんだそうです。

その里芋の露を集めて摺った墨で、短冊に字の上達を願いしたため
笹竹に結びつけたなら、想像するだけでも効果がありそうですが(?)、
お習字を長くやっていても、残念ながら露を集められるような里芋畑が近くになく、
いまだそんな風情を実行したことがありません。

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明日のお天気はいったいどうなるのでしょう?
もともと新暦はだいたい梅雨の後半で曇天や雨天になることが多く、
旧暦でないと美しい夏の夜空は望むべくもないのですが、
日本列島はいま戻り梅雨というよりもっと難儀な大雨に見舞われていて
前線にそって各地で被害が拡大しています。
のどかに七夕祭りを催すどころではない地域もたくさんあり、
どうかこれ以上の被害が出ませんようにと祈りたい宵です。


「露を集めて」©Tomoko Okada

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by team-osubachi2 | 2018-07-06 17:04 | 人を描く

真鶴の海

田舎から上京してデザイン学校に入りたての夏、
まだつきあいもぎこちない新しい友だちに誘われ、湘南の海へ泳ぎに行きました。

日本海育ちの私には生まれてはじめて体験する「太平洋」です。
富山湾のごろごろと石だらけの深い冷たい海しかしらなかった私は、
海岸にびっしりといる人の多さにすごくビックリしましたが、
イモの子を洗うかのように人でごった返し、ローションの油が浮く海の中
関東ロームの黒い砂が舞い上がるのにもとても驚きました。
「もう太平洋はいいや」と思いました。

それから三十年たってふたたび神奈川の海とご縁が出来たのは
ダイビングというものにチャレンジしたときからです。
横浜にあるダイビングスクールの練習は
主に神奈川の海のはしっこ真鶴半島界わいのポイントででした。

ダイビング歴の長い、南洋の美しい海を知る人たちから見れば
なんとも地味でちいさなポイントかもしれませんが、
地味だろうとなんだろうと、近海の生物たちの暮らしぶりを
(水槽でではなく)この目で直かに見る面白さは
生きものを観察するのが大好きな人間にはたまらないものがあります。
私は真鶴の海が大好きになりました。

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残念ながらわずか24本潜ったところで体調を大きく崩してから
ずっと潜れない日々が続いていますが、真鶴の海は私には潜りのお稽古場です。
いずれ再開するときは、またこの海できちんと復習をしてからになるでしょう。

七月に入って神奈川県内の海水浴場はすでに其処此処で海開きしましたが
いま日本海の沖を台風七号が北上しているため、太平洋側も風が強く波立ち、
おそらくどこの海も遊泳禁止になっていることでしょう。
当然ながら、海にうねりがあり波だっていると、潜水も出来ません。
漁師さんや釣り人をはじめ、潜る人らにも海岸で遊ぶ人らにも
夏の間、どうか穏やかな海面でありますよう。
海よ、鎮まりたまえ・・・そう祈りたくなる盛夏のはじまりです。


「真鶴の海」©Tomoko Okada

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by team-osubachi2 | 2018-07-04 09:31 | 人を描く

海へ

朝から強い風が吹いています。
空は青空。気温もどんどん上がっていっています。
今日、七月を待たずに関東地方の梅雨が明けたそうです。

よく晴れた今日みたいな青空を見ながらラジオを聴いていると、
すでに夏休みが来たのかと錯覚してしまいそうです。

海の中は陸上の季節の二ヶ月遅れと言われます。
それでいえば、海の中はまだ四月の終わりくらいの季節感でしょうか。
水着だけで泳ぐにはまだ海水温も低いため、当然海開きにはまだ早いので、
私のこのイラストも気が早すぎるかもしれません。w

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夏の海といえば、私にはやっぱり生まれ育った日本海の海を思い出します。
冬は鉛色の空にカモメが浮かび、荒波が毎日のように打ち寄せる日本海も
夏は透明度が高く非常に青い海なのでした。

海底が深く冷たい富山湾には、さらに立山の雪融け水も注ぎ込むため、
本当はとても海水浴が出来るようなところではないのですが、
海岸線に沿ってテトラポットが埋められたり、
コンクリートで護岸される以前の自然海岸をかろうじて覚えている世代のせいか、
夏の海というと、こんな風景を思い出してしまうのでした。


「海へ」 © Tomoko Okada

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by team-osubachi2 | 2018-06-29 14:20 | 人を描く

毎年外苑前にあるギャラリーハウスMAYA2さんで開催される
「Peace Card 」展にむけて、今年も一枚ポストカードに絵を描いて送り出しました。

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なぜかこのごろになって描いてみたくなった昭和の女の子・・・。

はじめまして。「てーこ」です。

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果たして見に行けるかどうか、来週もカンヅメで身動きがとれなさそうな私にかわって、
一週間よろしくね!てーこちゃん!

Peace Card 2017 Tokyo 展
10月9日(月)〜14日(土)まで、ギャラリーハウスMAYA2にて開催。
*この展示は終了しました

老若男女、プロ・アマ問わず、どなたでも自由にご参加いただけます。
ポストカードに、ご自分が思うまま平和への思いを描いてMAYAさんへお送りください。

by team-osubachi2 | 2017-10-04 09:21 | 人を描く

面(おもて)

あるときテレビを見ていて急に気がついた。
とある女優さんの顔が、以前とはかなり違う印象の顔になっているではないか?!

私はこの女優さんの以前の顔が好きだった。
海外の映画にも登場するくらい意思のはっきりした顔つきだったのに、
美容整形にありがちな(あまり個性の感じられない)
ただのキレイな女の子の顔になってしまったようで残念に思ったのだけれど、
すでに十分顔が知られた女優としては、
きっとそれはそれでとても勇気の要る大きな賭けだったろうと想像する。

・・・そうか、これが、このかわいらしい雰囲気をもった顔が
彼女の心が求めていた顔なのか。

あの面の下にそんな思いが隠れていたなんて思いもしないことだったけれど、
では、私が自分勝手にこの女優さんの以前の顔に感じていた
「はっきりとした意思のありそうな」とは何だったのだろう?

このごろはバラエティやカルチャーものにもよく登場するようになり、
仕事の幅が広がったようで何よりのこととは思うものの
はたして女優としてはどうなのだろうか?
ひょっとして、以前のような個性的な役はもう来ないのではないだろうか?
・・・などと、余計なお世話である。



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昨日の朝、妙な夢を見た。
むかしむかし中世日本のどこか、鄙びたお寺の学び所のような場所で
まだ子供の私は千切り紙で張り子の女面をこしらえ、
そこへ下手なりに眉をひき、瞳を入れ、朱墨で紅を差した。

なぜか仕上がりを見ないまま、夕方、学びを終えて
能をなさる老師のもとへと行き、
この張り子の面でひとさし舞ってくれとお願いするのである。

老師は快く受けてくださり、
さあ、自分のこさえた張り子の面がいよいよ舞うところを見られるゾ!
・・・とワクワクしているところで、
突然夢はシュ〜・・・っとしぼんで目が覚めてしまった!ああ〜・・・!

いったい夢の中で自分がこさえた女の面は
どんな顔をしていたのだろう?・・・ちょっぴり残念である。


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by team-osubachi2 | 2014-07-24 09:46 | 人を描く | Comments(6)

『るつ子』の嫁入り

ーーー春はもうすぐと思っていたのに、時ならぬ大雪でしたね。
雪景色は白い魔法のようですーーー

先週に続いて、今日も朝からしっかり雪模様。

この間の個展で出したイラスト『るつ子(幸田文「きもの」」より)』を
お嫁にもらってくださった方から、
昨日、お礼の言葉がしたためられた葉書が一葉届いた。


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ーーーるつ子さんは大人しい顔をして
部屋の空気を一変させるパワーがあるのが不思議です。
どこに置こうかワクワクします。本のそばが合うかしら。。。
友人が見たら話題をさらうでしょうーーー

描いた人間には面映いような、でも、とてもありがたい言葉。

他の作品たちも、嫁した先々から嬉しい便りを頂戴し、
ああ、やってよかったなあ〜と思うと同時に、
これからも頑張ろう!という力をいただいている。
さまざまなご縁に深く感謝。

外は雪で寒いけど、ハートはあったかい ♬


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by team-osubachi2 | 2014-02-14 09:02 | 人を描く | Comments(2)

退屈

振り返ってみれば、独身時代は
とにかく仕事をいっぱいいただいていたなあ〜と思う。
リーマンショックの後、自分が仕事をいただく広告・出版業界は
(この業界だけではないけれど)まるで火が消えたようになってしまった。

ちょうどそんな頃、私自身は人生の転換期を迎え、
長かった独身生活にも終止符を打ち、はじめての二人暮らしに突入した。

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先日、ある人に、仕事が激減した私に
「それじゃあ(仕事も減って家に居るだけじゃ)退屈でしょ?」
と言われて、アッと思った。

退屈・・・!!おお〜〜〜っ、なんて新鮮な響きっ!!
この世に「退屈」なんて単語があることをすっかり忘れていた。

たとえ仕事が激減したと言っても、自分の次へのステップアップを目指して
日々思案したり心に思うコトも多く、
実際やらなくてはいけないコトも山ほどある。
それでも思う間もなく失念して、出来ないままのコトもいっぱい・・・。
まして自分のことだけやっていればよかった独身時代ではもはやない。
私みたいな人間でさえこの慌ただしさ、時間のなさである。
(世の働くお母さんたちってホントにエラい!!)

ああ、退屈などという思いをしたことがこれまであっただろうか?
なんだかないものねだりみたいに、
寸暇でいいから、しばし退屈してみたいと思ってしまった。
まあ、この性分では15分ももたないかもしれないけど・・・ネ。


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by team-osubachi2 | 2013-07-29 00:52 | 人を描く | Comments(8)

若いころ、読む小説はもっぱら時代劇ばかりで、
仕事ではじめて小説の挿し絵を描いたのは、
たしか藤堂志津子さんの連載小説でだったと思う。

担当の編集者さんとの打ち合わせで、
現代小説はお読みになりますか?ときかれて、はじめて気がついたことがあった。
現代ものとはいえ、私が愛読していた小説はどれもこれも
すでに故人となられた作家さんのものばかり・・・。
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なんと自分が読んだ「現代もの」と思っていたものは
せいぜい昭和に書かれたもので、それはつまり前時代のものなのだった。

さすがに流行りの昭和30年代はまだ生まれていなかったのでよくはわからないが
自分が子どもだった頃の富山の田舎では、
ほとんど30年代と変わらない暮らしぶりだったのではないだろうか。
記憶にある古い家電は、まさに昭和30年代のものだったし、
流行りものの伝播は今より格段に遅かっただろう。

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それにしても、昭和時代の好きなモノクロームの映画をたくさん見ていると、
自分が生まれる以前なのに、なぜか懐かしさを覚える。・・・なぜだろう?

さすがに身内のモノクロ写真なんかを見ると、
えらく古ぼけていかにも前時代な感じもあるくせに、
昭和も終わる頃の自分のカラー写真を見ても、郷愁はあまり匂ってこない。
むしろ、少し前くらいに思っていたのに、
何十年も前の事と認識して愕然とする事の方が多い。

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郷愁を描こうなどとはまったく思わないのに、
なぜか自分の描く絵は「懐かしい感じがしますね」と言われることがとても多い。

個展の制作のためにあらためて読んだ向田邦子さんの作品も
人の心の中には普遍性がありながら、
お話の舞台が昭和のど真ん中の時代のものだからだろうか、
描いていても違和感が生じないのだった。
昭和のものは、ある意味、もう「時代劇」なんだなあ〜と思うこのごろである。


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by team-osubachi2 | 2012-09-06 08:03 | 人を描く | Comments(0)