2016年 10月 02日
Rehabilitation-10『ちいさな苞(つと)の贈り物』
深層心理というものでしょうか、
心の中に描く世界というのは不思議なものです。
それは知らず知らずに人生の大きな転換期を迎えていたころの事でした。
何か心の拠り所が欲しかったのでしょうか、
私は自分の空想世界の中にちいさな泉を思い描いていた時期がありました。
洗面器ほどのちいさな泉は、はじめのうちはただの水溜りのようでしかありませんでしたが、
じっくりと自分と向き合う時間を持つうち、少しずつですが清水が滲み出て
徐々に外へ溢れて流れ出るようになりました。
そして自分が心で強く願っていた事ともじっくりと向き合う日々を過ごすうち、
あるとき泉のそばにちいさな包みがあるのを発見しました。
あら?いったいどこの誰がこれを・・・?
贈り主は分かりませんでしたが、赤い紐がかけてあるその包みは
しばらく泉の傍に置かれたままでした。
それからどのくらいの日数が過ぎたでしょうか。
ほどなくして私は今の相方に出会い、それまでの自分の生活がどんどん変わってゆく中、
そっと心の中を覗いてみると、あのちいさな泉からは渾々と清水が湧き出していて、
気がつくと傍らにあった包みはいつの間にか開けられ、中に種がひと粒あるのを発見しました。
私はそのひと粒の種を泉のそばに蒔きました。
ひと粒の種はその後無事に発芽し、双葉をひらき、ひょろりとした若木になりました。
誰が贈ってくれたものかは未だにわかりませんが、今後どんな木に育ってゆくのか、
これからも楽しみに心の中で見守っていこうと思っています。
『ちいさな苞(つと)の贈り物』© tomoko okada
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by team-osubachi2
| 2016-10-02 21:55
| らくがき帖