ETV特集『よみがえる超絶技巧 輪島塗・貝桶プロジェクトの2年』

貝桶・・・と聞いてすぐにそれが頭に浮かぶ人はどれだけいるのだろう?
古い絵の中でだったり、または雅やかなひな人形のお道具の中にある
精巧な調度や犬筥、貝桶を見つけるのが好きな人間には
パッと思い浮かぶお道具だろうと思う。

先日録画しておいたETV特集の
『よみがえる超絶技巧 輪島塗・貝桶プロジェクトの2年』をあらためて見た。

ETV特集『よみがえる超絶技巧  輪島塗・貝桶プロジェクトの2年』_f0229926_1023121.jpg©NHK

輪島塗りの漆芸家で古典技法を研究されている
北村辰夫さんが棟梁となって、若い職人さんら50人がかりで2年かけて
貝合わせと貝桶を作り上げるプロジェクトの記録。

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少なくともここ100年はこんな大きな貝桶を造られてはいないだろうとのことで
ベースの木地作りからして毛利家所縁の貝桶を調べあげ、
精巧な蓋の木地にいたってはもう輪島にはその技術が残っていないらしく、
木曽の木彫りの人に蓋を製作してもらったり、
そこへ漆を塗り、蒔絵の技術で厚みと装飾を施し、螺鈿も細工し、
沈金で仕上げるまで各々の職人さんを鼓舞させて制作指揮する北村辰夫さん。

番組は全体の流れを紹介しつつ、最後の沈金の職人さんにスポットをあてていた。
最後の工程ゆえに、ここで失敗すると何人もの職人の手でやり直し・・・という
プレッシャーの中、若手の女性三人が沈金を施していた。

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カメラではクローズアップで大きく写されているけれど
実際にはこんな極小部分へ彫りを入れる沈金担当の女性。

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桶の蓋はもちろん、桶を受けとめる台座の内にも貝の装飾がなされて・・・。

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ひとつひとつの仕上がりが素晴らしかった。
テレビだのに、うわあ〜♡っと見惚れてしまうほど。

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そうよね、何も日常使うものだけが伝統工芸じゃないのよね。
こんな超絶した非日常のためのお道具も両方作れてこその「技」なんだなあ。

中に入れる貝合わせは細かくは紹介されていなかったけれど
なんと360組!実に720枚もの貝に描かれたのは金地に四季の花々。
こんなきれいな蛤を360個用意するだけでも大変なことだ。

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これを依頼したのはオーストラリアの大富豪。
日本の美術コレクターであるというその人は、
貝桶一式の出来映えにも十分満足なさっているようで、さらには
日本の若い職人が伝統技術を学ぶお手伝いができてとても嬉しいとおっしゃっていた。

う〜ん、実際このプロジェクトに関わった職人さんたちには
とてもおおきな経験になったんだろうなあ〜と思った。

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しかし不思議なことだけれど、こんな太っ腹な注文をする人物が
どうして日本にいないのだろう?
この国は今後ますます貧富の差が拡大してゆくのだろうけれど、
将来の日本にこんな依頼が出来るような人物ははたして現れるかしら?

美術業界のことも富裕層の税制なども知らない私は
宗教法人系の美術館でもいい、今後こういう依頼をもっと出来ないものかしらん?
技術はまだまだ復活できる可能性がある。
あとはそれを求める高い美意識と莫大な資金を持つ大人物の存在だけだ・・・と、
そんなことを思った番組だった。

*ご興味のある方は再放送でぜひご覧下さい。
再放送:2015年8月29日(土)午前0時00分 (金曜の深夜日付かわって土曜)

ETV特集『よみがえる超絶技巧 輪島塗・貝桶プロジェクトの2年』
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/20/2259504/index.html


Commented by セージグリーン at 2015-08-26 11:33 x
見逃しました。早速再放送を録画予約します。
息づかい一つに気を配らねば台無しになりそうな精緻な仕事と、あでやかな意匠、、、すばらしいですね。

>しかし不思議なことだけれど、こんな太っ腹な注文をする人物がどうして日本にいないのだろう?

依頼主が外国の方とは、、、海外の富裕層で日本が大好きな方は本当に多いですものね。日本庭園も錦鯉も数寄屋造りも茶道具も盆栽も、多くの外国人のあこがれの的ですものね、むべなるかなです。
日本の富裕層は、、、投資や億ション、外車、ブランドバッグに行っちゃうんですねぇ、、、。
京都の東山の山荘を観ると、それはいろいろありますけれども、つくづく昔の日本人は偉かったなぁと思ったりしました。
Commented by team-osubachi2 at 2015-08-26 16:06
セージグリーンさん
庶民にとっては身の丈にあった丈夫で使いやすい物で十分ですが(そこに美しさが加われば言うことなし)、ことさらな蒔絵や沈金の器は無用のことがほとんどですよね。重箱も文箱も求める人は稀でしょう。でも、せっかく持てる技も発揮する機会や場がなくては廃れていってしまいますよねえ、ホント。
日本の富裕層のお金の注ぎ方は、、、まあ、言ってもせんないコトですし、またその親やその上の世代も受け継いで来なかったせいでもありますかね。国の税制も大きく変わりましたし。
昔が良かったとばかり言ってもいられない、今自分たちにも出来ることがあるのだと北村さんの姿勢にそのような意気をと情熱を感じます。再放送、ぜひ!
by team-osubachi2 | 2015-08-26 11:00 | 出かける・見る | Comments(2)

イラストレーター岡田知子の、暮らしと、着物と、お絵描きの日々


by team-osubachi2
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