奥州の秀衡塗り

若いときから歴史小説が大好きで、
ことによく読んだ長編のひとつが吉川英治の『新平家物語』。
並行してさまざまな資料も集めたりしながら、
いったい何度くり返して読んだかわからないくらいだ。
そんなころに知ったのが、岩手県の秀衡(ひでひら)椀だった。

はじめて写真で見たとたんグッ!ときた。
なんてモダンで華がある塗りだろう!
そのくせどこか土臭いような素朴な雰囲気もあるのは、
厳しくても、おおらかでたくましいみちのくの風土で
生まれたものだからだろうか?
けれどもこの塗りもの、東京などで見かけることはめったになく、
(日本民藝館などで見る江戸時代の秀衡椀もすこぶる素敵だったりする ♪)
いつか東北へ旅することがあれば、秀衡塗りのお店をのぞいてみたいもの、と
ほんのりあこがれ続けた塗りのお椀だった。

奥州の秀衡塗り_f0229926_12131928.jpg

一昨日のこと、横浜そごうへでかけたついでに、
横浜タカシマヤで開催中だった『大東北展』ものぞきに寄ったところ
岩手から来ていたお店のガラスケースに秀衡塗りを見つけた。
うわ!ヤバい予感・・・!?

吸い寄せられるように側へ行って見てしまったらもうおしまいである。
買わないための言い訳を、独り言のようにブツブツとつぶやいていたら
今年81歳だというお店のおばあちゃんが言った。
「そんなお金貯めてからなんて絶対無理よォ、いま買いなさい。
んで買ってから返スの。そでないと買えるモンじゃないのよォ」
「まったくです。その通りです!・・・なんですけどねえ〜、う〜ん」
そこでおばあちゃん、今度はささやくように言った。
「もス買うんだったら、これでおスまい(最終日の閉場)だから勉強スたげるヨ」
え?!ここで逢うたが百年目というコトか?!
う〜〜、それならもう決めちゃえ〜!!

椀の内側と、あえて刷毛目を勢いよく残した雲地取り部分は
(写真の色よりも)茶がかった抑えた錆朱の色で、金箔も控えめ。
なにしろ直径15cmもの大椀だしするから、
これからの季節、熱々のうどんや、きのこ汁だの芋煮汁だのから
親子丼やちらし寿司なんかもいけそうだ。
もちろんお雑煮もバッチリいける♪
こういう器はなるべく普段から気取りなく使う方がいい。

お店のおじさんが会計に行ってる間に、
おばあちゃん「サービス。これもあげっから・・・」と、
お揃いの箸二膳とスプーン二本も持たせてくれた。
うわ〜ありがとうゴザイマス!末永く大切に使わせていただきますっ!
買って支援の大東北展。
二十余年もあこがれ続けた秀衡塗りのお椀・・・。
東日本大震災の年にようやく買えたことを忘れずにいようと思う。

秀衡塗/丸三漆器
http://www5.ocn.ne.jp/~hidehira/index.htm
Commented at 2011-09-22 08:58 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by ひろまき at 2011-09-22 16:39 x
はじめまして。 「キモノ・・・」でネット上を徘徊中にこちらのブログに出会いました。ホッと和めるフォトに穏やかな語り口の文章。 知性あふれている上にイラストを生業とされているなんて、なーんて、ステキな女性なの、と憧れの念を抱きつついつも拝見しておりました。
今日はまた良いお椀を見せていただきました。きっとそうだろうとは想像しておりましたが審美眼もおありなのですね。 私は、秀衡塗り、という言葉まで全く知らず無知を恥じ入るばかりです。
また、楽しみにブログを拝見させていただきます。

Commented by team-osubachi2 at 2011-09-22 21:36
鍵コメントさん
ご家庭で塗りの器が一番活躍するのはやっぱりお正月などでしょうか?普段からちょいちょい使うには蒔絵も箔もなるべくない方がいいのかもしれませんね。個人的に、この秀衡塗りと同じくらい好きなのが根来塗りです。根来・・・といえば、この紀伊半島の災害も酷いもので、まだまだ心配な状況が続きますですね。
まあしかし、それにしましても!!鍵コメントさんの見事な飛びっぷり!私は職人のムスメですから、職人さんへもっと応援してあげたいと思うのですが、現実的には思うほどには応援出来ないことの方が圧倒的に多いので、鍵コメントさんのような方がいらしてくださると本当にありがたいなあ〜って思います。
いつかぜひ機会を作ってその「支援もの」ともお会いしたいものです〜♡あ!?白梅さんで・・・なんていいかもですね〜!?
Commented by team-osubachi2 at 2011-09-22 21:57
ひろまきさん
はじめまして!ありがたいコメントをいただきありがとうございます〜。ですが、そんなに褒めていただいても何もお出しできませんで・・・(笑)。
お着物がお好きなんですね。こちら、あまりちょいちょい着物の記事がないんですが、それでも見ていただいて嬉しいです。はたして審美眼を持ち合わせているかは不明ですが(笑)、「好き」か「そうでない」か、割合ハッキリしている方かもしれませんですね。これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
Commented by ルリ子 at 2011-09-23 08:18 x
Tomokoさん、
うわぁー 素晴らしい塗りのお椀ですね。 私も塗りや漆のものが好きでこのような伝統工芸物には弱いのです。 吸い寄せられるように・・・、 そして危険・・、 よーく分かります!
 職人さんの匠の仕事を思うと大切に、応援してその技術を残して欲しいなぁ、と思います。 着物もそうですがこのような日本の伝統工芸品も守っていきたいですね。
Commented by すいれん at 2011-09-23 12:08 x
tomokoさま
確かに、グッときますね~。81歳のおばあさんの売り文句もいいですね~。買っちゃいます、まちがいなく(笑) 
でも正解だと思います。 末永くご愛用くださいませ。
Commented by team-osubachi2 at 2011-09-23 13:26
ルリ子さん
塗りものの手触りや口あたりの良さ、いいですよね。たくさんは要らないですし、自分に扱えるだけの良いものが少しだけあれば・・・と。
ルリ子さんのお弁当箱もいつも「い〜なあ〜」と思って拝見してました♪
なるべく日常の暮らしにこういう手工芸品を取り入れたいものですよね。
Commented by team-osubachi2 at 2011-09-23 13:31
すいれんさん
もう買うしかなかったです〜。もうね「我が家の食卓に果たして似合うのか?」なんてどーでもいいや〜・・・と(笑)。
でも、いまも見るたびに高揚感があります。長く大切に使い続ければ、結局はお買い得ですし。楽しみたいと思います〜!
Commented by 神奈川絵美 at 2011-09-23 14:23 x
こんにちは! うおーこの時期横浜高島屋に行かなくてよかった(笑)。迫力すら感じられますねぇ。そして良いツヤ。
江戸時代~の漆なり蒔絵なりを観て思うのは、技巧は今の方が高いのかも知れないけれど、デザイン性はぐっとモダンというか、心をわしづかみにされるような個性を感じるものが多いなということです。末永く、楽しんでくださいねー♪
Commented by team-osubachi2 at 2011-09-23 22:37
絵美さん
いえいえ、なにもその時期でなくっても、絵美さんとてこれからどこでどんな「支援活動」にぶち当たるかわかりませんよ〜(笑)。
着物でもそうですが、もう買うしかない状況って、人生何度かはありますよね。それが所縁あって少しでも支援につながるなら、まあ予定外の出費もよしとしますか・・・。今夜さっそく使ってみました。今日秋分の日は、熱々の汁物が美味しい涼しさでしたね。
横浜タカシマヤでの江戸の着物展も楽しみ。どの意匠もグッときます〜!
by team-osubachi2 | 2011-09-22 00:04 | 買う | Comments(10)

イラストレーター岡田知子の、暮らしと、着物と、お絵描きの日々


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