ウズベキスタンのスザニ

先日、ブログ仲間のすいれんさんのアトリエ「長平庵」を訪ねた日は
秋になると袖を通したくなる鮮やかなだいだい色の生紬に、
ウズベキスタンのスザニ(手刺繍布)の帯を締めた。

このスザニにはちょこっと思い出がある。
2004年の春にヨルダンからシリア、レバノンの中東3カ国をまわった帰途、
イスタンブールを経由したさいに、グランバザールへ立ち寄り
なんとなく良さそうな店構えの布専門店にふらりと入って
買って帰ったのが一枚のスザニだった。

ウズベクの家々の女性が、ことに婚礼のさいなどに用意し
家の中や身の回りで愛用するための手刺繍布スザニのことを、
以前、よそで見聞きして知っていたので、
「いつか欲しいもの」のリストに入れてあったのだ。

ウズベキスタンのスザニ_f0229926_9365461.jpg

その商店に入ると、品のいい主がいて、
スザニをいくつか見せて欲しいと伝えると、
すぐにお店の小僧を使いに出し、近くのチャイハネから
ミントティーをとって、客用の小卓に出してくれた。

甘くて香ばしいミントティーをいただいている間に、
主は他にもあるたくさんの品物をいろいろと広げて、
「これはブハラ、これはサマルカンド、こちらはヒワ、
同じスザニでも、地方によって模様の特徴が違うんですよ」と
ていねいに説明してくれた。

その中から、風呂敷ほどの大きさのブハラの一枚を選んで、
さて、値段は?ときいてみると、
「70ドルです。これはアンティーク風に見えますが
現代のものなので安いんですよ。アンティークですと、
この大きさのもので200ドルからになります」とのことだった。
(すでに以前から欧州でスザニのアンティークは高値で取引されている)

70ドルかあ〜!ううう〜・・・ぜんぜんダメだこりゃ。
実はそのとき、あまりお小遣いを持参しなかった私の財布には
もう35ドルしか残っていなかったのだ(汗)。

ウズベキスタンのスザニ_f0229926_9503081.jpg

「すいません、お金が足りないのであきらめます」というと
店の主は「ではいくらなら?55では?」「50は?」「・・・では45?」
私は「帰国前で、もうこれだけしか持ってないので」と
ぶっちゃけ財布から35ドルを出すと、主は一瞬動きをとめて私を見たのち
「・・・わかりました。35ドルで結構です。
まあ、これを好きだと言ってくださったので、
私には儲けにはなりませんが、これも旅の出会いですから」と
親切に売ってくれたのだった。

帰国後、しばらく手元で眺めて楽しんだあと、たまたま持っていた
無地紬の名古屋帯地とともに、ふだんからお世話になっている
青山の呉服屋さんへ持ち込み、帯に仕立ててもらった。
そして、私だけの「一点もの」の帯が出来上がったのだった。

ウズベキスタンのスザニ_f0229926_10522946.jpg


去年のこと、知人の方が中央アジア5カ国をまわってくるというので
お土産にスザニを所望したら、サマルカンドで買ってきてくださった。
テーブルランナーだろうか、和室の壁にある無粋な通気口を隠すのに
ちょうどいい布幅だったので、それを壁掛けにして楽しんでいる。

スザニは一見華やかだけど、よく見ると、
手作りならではのゆがみや不揃いなところもあって、
それがかえって素朴でおおどかな布の魅力にもなっていると思う。
布好きにはたまらない異国の手刺繍布である。
Commented by すいれん at 2010-11-12 09:53 x
tomokoさま
そーなんですよね、旅先で買ったものには旅の思い出も一緒についてくる、それがお金では買えないものですよね。
私も布好きで、どこかへ行くとついストールとか買ってきてしまいます。ものを増やすのはやめようと 思うのですが・・・。
Commented by sogno-3080 at 2010-11-12 17:18
あっ、この帯のことお聞きしようかと思っていた
ところだったんですよ。ウズベキスタンの布だったの
ですね~!!購入した時のエピソード、面白いですね。
Tomokoさんの文章読んでいたら、鶴見和子さんの
「きもの自在」を思い出しました。鶴見さんも旅先で
求めた布できものや帯を作られていましたよね。
Commented by team-osubachi2 at 2010-11-12 18:56 x
すいれんさん
はい。私も行く先々で気に入った布ものを見てしまうと、つい手込めにしたくなります。もっとも、薄いお財布さんがしょっちゅう「待った!」をかけてくるので、なかなか思い通りにはなりませんが(笑)。
そうですよね、ものの数はなるべく数は適量かつ長く大事につきあうようにしたいですよね〜。
Commented by team-osubachi2 at 2010-11-12 19:04 x
sognoさん
さいです、ウズベキスタンのものです。残念ながら、ウズベキスタンへはいまだ行けずにいますが、布だけ先に、なぜかトルコでご縁がありました。
鶴見和子さんの「きもの自在」が出てほどなく、たまたまご縁があってお会いしまして、倒れられた後も、ほんの時おりですが文通させていただいた時期がありました。いつかそのエピソードもブログに記せるといいな〜って思ってます。先生の海外の布とのつき合い方、とても参考になりましたデス、はい。
by team-osubachi2 | 2010-11-12 01:18 | 着物のこと | Comments(4)

イラストレーター岡田知子の、暮らしと、着物と、お絵描きの日々


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