「うん。だいたい分かった。『じゃ、自分はどうなのよ?』ってことだよな」
今から十数年前、その人は私の個展を見にいらして、こう言いました。
私の顔に一瞬はてなマークが出たのを見て、その人はもう一度穏やかな口調で言いました。
「自分はどうなの?ってことなんだよ」

この時の個展では過去に旅した国々で出会ったり見かけたり人たちを描いて発表したのですが、
思いがけずその人はお祝いのワインを片手に一人でふらりとギャラリーに現れ、
ざっと作品を見てまわってからそう言葉を残して去ってゆかれました。
言われた言葉に戸惑いつつも、ひと言も言い返せないくらい何か核心を突かれた
・・・ということだけはハッキリとわかりました。

個展の二年ほど前だったでしょうか。
思いがけず広告業界の大御所コピーライターのその人からご指名いただき、
とても大きな仕事をさせていただいたのですが、
室内の雑貨小物や料理などを描いたシリーズ第一弾は好評だったのか
思いがけず第二弾も発生したまではよかったのですが、
今度はモノのほかに人物も描いてもらわないといけないが、岡田さんは人物が描けるの?と
間に入って仕事をすすめてくださったデザイナーさんを通して訊かれました。

ドキン!としました。当時の私は、人物は「形は描けるけど、どうも苦手」だということが
自分でもだんだんわかりはじめていたころでした。
私が描けるのはせいぜいお人形みたいな「形」だけ。
それならいくらでも描けるのに、どうして「人間」は描けないのだろう?
人物を描くことに腰が引けるほど、それはいつの間にか大きなコンプレックスになっていました。

けれどもこれは新聞広告の仕事でしたから、すでに締め切りは待ったナシ。
どうにかこうにか人物も描いて提出し、二度にわたる大仕事は無事に完了しました。
結局その大御所先生とは一度もお会いすることもなく終わったのですが、
のちに個展をひらくさい、ご案内だけでもと大御所先生にもDMをお送りしておいたのでした。
お忙しいだろうし、たぶんダメだろうと思っていたのに、案に相違してその人は来てくださいました。

「あの第二弾のときに、実は俺はデザイナーに“このコは人物描けないよ”って言ってたんだよ。
作品ファイルでも人物描いてあるの見た事ないしね。
で、来てみたんだけど、うん、今日見て、だいたいわかった。
やっぱり『自分はどうなの?』って事なんだよな」とお話してくれました。

よくわからないけど、なんだか禅問答みたいだなあ・・・と思ったその言葉は、
ずっとずっと私の心の中にピンで留めたメモのように貼り付いていたのですが、
数年後、とある失恋をキッカケにはじまった“自分と向き合う日々”の中で、
ある日アパートの台所に立って夕飯の支度をしている最中に
突然言われた言葉の意味が分かったのでした。

「自分を見失っているような者に、人間など描けるのか?」

瞬間、顔から火が吹き出たかと思うくらい真っ赤になったのがわかりました。
自分の裏側を完全に見透かされてしまったことの恥ずかしさ!
“穴があったら入りたい”とはこういうことを言うのでしょうか?!
一人きりの台所で、恥ずかしさのあまりしゃがみ込んでしまったほどでした。

いつからそんなことになっていたのでしょう?
気がつかないままのコンプレックス、上昇志向や見栄、または背伸びというものでしょうか。
私は、私という人間の本心をどこか遠くにすっ飛ばして、
何年も自分の中を空っぽにして、頭だけ小賢しく働かせてきたようなのでした。

いったい私の本心とはどういうものなのでしょう?どこにいっちゃったのでしょう?
考えてもさっぱりわかりませんでしたが、ありがたいことに「本心の私」は
はるか遠い空中に追いやられていても、細い細い糸の先に必死につかまって、
ちゃんと私に繋がっていてくれたようでした。

顔から火が出る思いをしてひと月ほどたったある朝、
これも突然、本心の私がシュッと私の中に戻って、あ!ひとつになった!と思った瞬間がありました。
ああ〜、自分が自分に戻ってきてくれた!ありがとう!本当にありがとう!
不思議なことに、歓喜と熱い感動が私の中で起こりました。
そして、もう自分から目をそらすのはやめよう。どんなに気に入らないところがあっても、
自分だけは自分の味方になってあげよう!と、そのとき心に決めました。
すでに不惑の四十代に突入して数年がすぎていました。

たぶんもう覚えていらっしゃらないだろうなあ〜と思いつつも、
個展のときにいただいた言葉と、その後ようやく言われたことの意味を悟ることが出来た
感謝の気持ちをしたため、お礼のはがきをのちにその人へお送りしました。

ーーー『じゃ、自分はどうなのよ?』ってことだよなーーー

そう言ってくださったのはコピーライターの仲畑貴志さんです。
あのとき仲畑さんからからいただいた言葉は、私の宝もののひとつとなっています。


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『私と本心』© tomoko okada

*イラストレーションの無断使用及び複製・転載をかたく禁じます

# by team-osubachi2 | 2017-05-21 20:27 | らくがき帖

虹と、笑いと、音楽

*5月18日(木)晴れ一時雷雨

朝のお日様はどこへいったやら?
お昼ごろ、急激に曇ってきたと思ったらいきなり激しい雷雨。

窓の外を見てみたら、あ!お隣の戸建ての軒下には洗濯物が・・・?!
ああ〜あ、あれはもうアウトだわ。
なんだかね〜、近年は気温の上がり下がりも、雨もいきなり土砂降りってことが増えたわねえ?

夕方着替えようとして、何気に外を見たら、今度は、あ!虹・・・?!

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うわあ〜!きれ〜い!それもダブルで。まるで虹の架け橋ねえ〜・・・。

思わずベランダに出てパチリ!
だけどスマホなんかじゃ画面に全部入らなかったから、虹の端は別撮りにした。

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あの虹の端・・・レインボーズエンドにはどんなラッキーがあるのかしらん。
それが見られたってだけでなんだかずいぶんと豊かな気持ちになるじゃない?

その夜は、友だちと小三治師匠の独演会へ行った。

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小三治師匠は77才になったんだそうだ。
私の場合は師匠が50代のころから聴いてきた。
70代に入られたころか、ひところ、一言言い間違えたら
自分へのペナルティー感が一瞬顔に出たように思ったこともあったけど、
でも、このごろはひとっつふたつ単語を間違えて言い直しても
もうお話の登場人物が間違えたかのように聴こえる。

ずっと以前「肩の力が抜けたような落語ができるようになりたい。
でも、まだだ。肩に力が入ってしまう。難しいもんですねえ」って、
まくらでそんなことを仰ってたことがあったけど、このごろはどうですか?

もう以前のようには追っかけられなくなったけれど、
師匠の落語で、こちらは肩に入ってる力がほぐれるように笑ってすごしましたとさ。

夜は肌寒く、コットンショールをぐるぐると巻いて帰った。

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*5月20日(土)晴れ

今日は全国的な夏日。いきなり猛暑なみのところもあったみたい。

午後、すみだトリフォニーホールへサン=サーンスの交響曲第3番オルガン付きなどを聴きにいく。

例によって門外漢なので、心地よい音と旋律に耳を澄ませて聴き入るだけだ。
初めて聴く曲もピアノのデュオもとても気持ちよく聴けた。

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クラシック音楽に限らず、生の音源による良い音楽に身をゆだねていると
凹んでいたり、ささくれてたりする心が滑らかに、平らかに鎮めてくれる気がしてくる。

ここんとこひとつのことに凹んでいたのだけれど、音楽もやっぱり
深く低く沈んだ音や激しい音に揺さぶられたあとに喜びが奏でられるんだなあ、
旋律のどちらが欠けてもひとつの作品が成り立たないんだなあって思ったら、
「うん、大丈夫だ」って思えてきた。

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すみだトリフォニーホールのロビーにその舟越桂さんの作品「水のソナタ」があった。

ちょうど昨晩Eテレで見た『SWITCHインタビュー 達人達』で
長塚圭史さんと舟越桂さんのお話がとても面白かったんだけど、
まさにこの彫刻の雛形が舟越さんのアトリエに在るのをたまたま見ていたその翌日に
実物大の作品を見られたことに感激した♪

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このごろ自分は「花」と「手」に惹かれているせいか、作品の手に目がいく。
どんなソナタを奏でる手だろうか・・・美しい指であった。

虹と、笑いと、音楽に・・・感謝♡

# by team-osubachi2 | 2017-05-20 23:50 | 日々いろいろ | Comments(2)

琉球のユッカヌヒー

私が持っている琉球紅型のものは帯が一本だけ。

すでに故人となられた知念貞男さんという方が染められた琉球張り子「闘鶏」。
この染め帯と出会ったことで知ったのが旧暦で祝う沖縄のこどもの日「ユッカヌヒー」。

今年の旧暦端午の節句は5月30日。
なので「ユッカヌヒー」はその前日の29日だそう。

「ユッカヌヒー」とはつまり「四日の日」。

子供たちの健やかな成長を祝う端午の節句の前の日は、
琉球の子供たちにとってはおもちゃを買ってもらえる日なんだそうな。
今もそうなのかな?知りたいな。

そんなワケで、今月の後半は「ユッカヌヒー」をお題に棚を飾る。

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上段には現代の琉球張り子作家・豊永盛人さんの張り子を置く。

背景に下げた四角い布は、もともと八寸帯だったのを切ったもの。

・・・え?帯を切った?

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・・・です。もうクタクタで締められないなあと思ったもので。

でも、このすくいで織りだされた枇杷の柄がとても好きで、
なんとかそこだけは活かせないかと、お太鼓と前柄部分だけ切って手元に残しておいた。
で、これもようやく場を得て飾れるようになったというワケ。

二段目に置いたのは、おむすびの上にのったユーモラスな雀と、
黄色い、これは鳩・・・かな?

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三段目には、無病息災にちなんだ黄鮒(宇都宮)の土鈴の下に、
これも切った枇杷帯の前柄部分を敷いて、と。

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最後に万両の葉っぱを上段の両脇において、ちゃらら〜ん!

手作り金太郎に続いて、沖縄の端午の節句飾りの出来上がり〜♪

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今年は沖縄が返還されて45年になると知ったのはつい3日前のこと。
かの地も抱える問題は山ほどあるんだろう。

どこのどんな子供たちも、みんなみんな、どうか健やかであれ。

# by team-osubachi2 | 2017-05-18 14:44 | これが好き | Comments(2)

今週末から、我が親愛なるいやしん坊(?)友だちでもある
白洲千代子さんの個展が始まりますので、そのお知らせです。

京王井の頭線 久我山にあります「ギャラリー藍」さんにて
今週末の5月20日(土)から24日(水)まで
正午12時〜午後7時まで(最終日は午後4時まで)

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遊び心あふれる手作りジュアリーやアクセサリーです。

こちらは↓羽織紐です。

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今回は羽織紐もちょっとあるそうなので、夏の羽織などにいかがでしょう?

ご興味のある方はぜひお出かけください ♪

# by team-osubachi2 | 2017-05-17 18:41 | お知らせ

身体の潤滑油

振り返ってみれば、それは先週くらいからだったろうか。
ん?と気がつけば、朝起きた手がむくんでいた。
体内の水分調整でむくんでる分か、わずかに体重も増加した。

あ〜、もしかしたら女性ホルモンが身体をめぐってる???

ほっぺや手指の少しむくんだ感じもなんだか「お久しぶり〜♪」って感じ。

案の定、この数年ギシギシしていた股関節のちょっとした痛みと軋みが
やんわりと軽くなって消えているではないか。
寝過ぎるとすぐに張ってくる腰の硬さも、ちょっと動くだけですぐ消える。

うわあ〜、すばらしいね〜、女性ホルモンって!w

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いつまで続くかな?
むくみは正直いってあまり快適とは言えないけれど、
でも、身体をめぐる「潤滑油」の効用をあらためて実感してるとこ。

もうしばらく混乱期はあるかもだけど、今後迎える年代にむけて、
自分自身でバランスをとろうとしているんだろうな。

心身は元気に回復しても、巡り来る季節と同じように二度と同じ若さには戻らないから
今のこの身体をせいぜい愛おしんであげよう ♪

# by team-osubachi2 | 2017-05-17 16:06 | 日々いろいろ | Comments(0)