かにかくに 祇園はこひし 寝るときも
枕の下を 水のながるる
吉井 勇

京都の祇園界わいでも、この白川沿いを歩いた人なら
かならず見るであろう有名な歌碑が通りの中ほどにある。
料理旅館の白梅さんは、その歌碑よりもちょいと西がわの、
白川にかかった小橋をわたったところにある祇園のお宿だ。
2月17日のこの日、関西学院大学の見学を終えて、
相方と共に阪急電車で京都入りしたあと、
このお宿にいったん荷物を置いて、
“大人の修学旅行” よろしく清水寺あたりを散策し、
夕暮れどき、あらためて明かりの灯った白梅さんに入った。

若いころからたびたび安い切符と体力を駆使して京都に通い、
ある時期からは、この白梅さんにも
何度となく泊めていただいているのだが、今回通されたお部屋は二階の
これも前から知っている部屋のハズ・・・なんだけども、
仲居さんに部屋の奥を案内されて、あれえ?と思った。
「奥に部屋?・・・ここ、お風呂とトイレ、ついてましたっけ?」
前回白梅さんを訪れたのは、'07年に亡くなられた
河合隼雄さんのお別れの会以来なので
数えてみればあれからもう4年以上たっていて、
きけばこの数年の間にまた改修して、今の部屋割りになったのだという。
仲居さんは、床暖房も入ったことを教えてくれた。
へえ〜!ほんわか温もる畳は初めての経験だ。
外歩きですっかりこわばった顔とカラダをほぐそうと
夕ご飯の前にお風呂に入ることにした。
お部屋にもお風呂がついてはいるのだが、
すでにお湯の支度が整っている階下の広めのお風呂に入ろうと、
浴衣に着替えて階下へ下りると、女将の姿がお帳場の横に現れた。
思わず「Tちゃ〜んっ!」と声をかけ、
久しぶりの再会をハグして喜びあった。
これもつくづく不思議なご縁なのだけれど、
白梅さんの女将は自分と同年の友だちで、
かれこれもう20数年来のつきあいになる。
初めて出会ったころ、私はまだペーペーのグラフィックデザイナーで、
かたや彼女も某航空会社に入社したて、
近く客室乗務員としてデビューすべく、日々特訓中の身だった。
(あのころはスッチーとも呼ばれた花形職でしたねえ〜)
そんな女将が10数年前、結婚・出産を期に
彼女の実家である白梅さんに戻り、若女将として働きだしてから
ときどき泊めてもらうようになったのだが、
初めてこの場所を訪れたときにはビックリしたものだった。
ひょえ〜!ここが実家あ〜?!

生まれつき、華のある人である。
(私の写真ではぜんぜん伝えられないんだけど・・・)
国際線の客室乗務員として世界中を飛び回っていたころは
大輪のバラを背負って歩いているようなオーラがあった。
それが今は少し変化して、白梅のようにしっとりはんなり、
生まれも育ちも京のおなごはんである。
そのしっとりはんなりの女将と仲居さんのもてなしで、
お風呂あがりに美味しい京料理をいただいた。
美味しいお酒と、節分と立春、新しい年が盛り込まれた
目にも麗しいお料理の数々に
もうたちまちほわわ〜ん♬ といいキモチになってしまった。

お料理の途中で、「ほんの気持ちばかりどすけど、お祝いに・・・」
といって、お赤飯が出てきた。
実は今回の京都訪問は、長いこと独り身だった私が
ようやく人生のパートナーを得て、その相方をTちゃんに紹介すべく、
入籍から2年たってようやっと実現した京都旅である。
私の阿呆なムスメ時代もよく知っているTちゃん。
また、私のそれまでの人生でいちばんきつかったあるときも、
側でささえてくれたTちゃんなのである。
ふと気がつけば、この日の床の間の飾り炭には
年も、私も、「新しい春」を迎えて紅白水引の結び切り・・・。
相方ともども女将の心入れに深く感謝した。

新しい床暖房システムのおかげできつい底冷えもなんのその、
こころゆくまで美味しいものを味わい、ふにゃふにゃになったところで
奥のお部屋に敷いてもらった鴇色ちりめんに梅模様のお布団にもぐりこんだ。
そうして朝までぐっすりと眠り呆けて、
起きたらあたりは一面の雪だった・・・。
ああ〜、なんて素晴らしい冬の京都!!
雪見障子越しに、祇園白川の眺めを楽しみながら、
昔から白梅さんで働き続けている
大ベテランのおばちゃん・まぁまさんが焼いてくれる
だし巻き玉子をほおばった。う〜ん、極楽だあ〜♪
久しぶりに訪れて、顔なじみだったおばちゃんたちが
今も元気で働いているのも嬉しかったし、
Tちゃんと出会うキッカケになった懐かしい方々の消息も聞けて、
ああ、よかったな〜と思った。

祇園という花街にあって、料理旅館の女将などという仕事の大変さは
私のような素人には想像の外だけれど、
Tちゃんの若かりし頃のことを思い出すと、家に戻るまでには
彼女なりに思うところもいろいろあったに違いない。
けれども、今現在の女将のもてなし方や、堂に入った挨拶の仕方や、
女主人として切り盛りしている様子をうかがっているうちに
「・・・ああ、お客さまなんだ」と思い至った。
Tちゃんが女将の器を持って生まれたことは当然としても、
それを磨いてくださっているのは、やはりお客さま方なのだろう。
なにも良いお客さまばかりではない。
中には困ったちゃんなお客さまもいて、それがまた、
女将の器を磨くチカラになっているんだろうなあ〜と思った。
そして、彼女の口ぶりから察するに、
奮闘する彼女をそっと後ろ側で支えているのが、
ご主人と子供たちの存在なのだろうなあ〜、と
今ごろになってそんなコトも感じたりした。
古を今に活かしつつ、Tちゃんのこれまでの経験や感性をフル回転させて、
お祖母さんや、大女将のお母さんの時代よりも
さらに快適に、日々進化し続けている白梅さん。
ここはいついかなるときも、のれんを一歩くぐった先には
心からのおもてなしという一輪の白梅の花が咲いているのである。

さあ、私もまたがんばろう!
Tちゃんに負けないように、小さくてもいいから、
いつかきっと、イラストレーターとしての「自分の花」を咲かせよう!
そしてまたコツコツとお小遣いを貯めて、京都へ遊びに行こう!
料理旅館 白梅http://www.shiraume-kyoto.jp/