カテゴリ:着物のこと( 371 )

これも記念の一枚

毎年、まだ寒さが残るような春先から袖を通したくなる着物がある。
石川県白山市で織られている牛首紬という織物で、
サラッとしてても大島紬より地がしっかりしていて強靭そうな手触り。
そのくせしなやかで控えめな艶が、
日ごとに強くなってくる春の光をやわらかく反射する。

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10年くらい前の師走のこと、
仕事でもお世話になっている呉服屋さんへ、暮れのご挨拶に行った。
お店の中は、おりから歳末の売り出し中で、
めずらしく牛首紬が何反もたくさん置いてあった。
値札をチラ見してもプロパーで買えるはずがなく、
「見るだけならタダだし」と、
さもしい根性であれやこれやを広げて冷やかすうち
藍染めの縞を何の気なしに鏡の前であててみると、
アラ?なんか似合う?

このときの私は、ほんの数日前に失恋したばかりで、
まだ頭の中がぐちゃぐちゃしていたのだが、
その縞が自分に似合うと思った瞬間、頭の中で何かがブチッと切れたようで、
「これ、買いますっ!」と口走っていた。
人生、コンナコト、アッテモイイノヨッ!?

それから数日後、(古い例え方だけど)
ピンクのブタ貯金箱を決心してたたき壊す子供となんら変わらないキモチで、
わずかな定期貯金を壊して現金を手に、お店へ反物を引き取りに行った。
・・・この、清水の舞台から飛び降りた後遺症は
その後も私の経済にそうとう長く響いて大変だったけど、
あのときの恋愛のキラキラ感や、アイタタタ〜なドン底感、
今ではちょっとばかりまぶしいような、懐かしいような、そんなこそばゆいものが
これを着ると、ときどき頭の中をかすめていったりする。

とんだ失恋記念だったけど、こんな買い物は二度とないだろう。
あのとき思い切って買っておいて良かった!と今では思っている。
by team-osubachi2 | 2010-04-05 08:40 | 着物のこと | Comments(4)