カテゴリ:人を描く( 35 )

映画「浮雲」

去年の暮れ、年の瀬も押し詰まってきたころ、
夕飯の支度をしているときに
テレビのニュースで高峰秀子さんの訃報を知った。
好きな昭和時代の女優さんの一人だった。

何本も好きなデコちゃん出演の映画があるけれど
20代のころには「なんとなく暗そ〜」で見ないまま何年かが過ぎ、
30代に入ってようやく見る気になって見た映画が「浮雲」だった。

先日BSで放送していたのを久しぶりで見てみると
まあ〜しかしホントに、何回見てもこの映画は
な〜んてどよ〜んと澱んでかったる〜い・・・というのか、
閉じこもった世界のオトコとオンナの、
もうどうしようもないぬかるみぶりに
思わずため息が出そうになってしまった。
(森雅之ってホントにこんな役がピッタリ!!)

年齢をとることの良さ(大変さも含め)を年々実感しているけれど、
自分の経験とともに同じ作品の感じ方が変わってくるのを知るのが
面白くてたまらない。
この映画に対しても、まあ、自分のこれまでのバカ丸出しの経験や
数々の痛い思いも、こんな風に感性の肥やしになってくれるとすれば
なにも反省ばかりでなく、逆に
ありがたいものかもしれないなあ〜と思ったりもする。
(もっとも、絵の表現にはなかなか反映されなかったりして
もどかしい部分もあるけれど・・・)


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ま、それはともかく。
スクリーンやエッセイを通して感じた高峰秀子さんという人は、
叩けば必ずはじき返すような強靭さと、
頭の良さやユーモアのセンスだろうか。
着物の、ことに織りの着物の着こなしが
すごく「自分を知っている」というカンジがして
格好イイ女優さんの一人だった・・・と、今も憧れている。

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by team-osubachi2 | 2011-05-29 01:04 | 人を描く | Comments(0)

ずっと以前、新聞で見たちいさな写真記事に目がとまった。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争ののち
セルビア人のバイオリン弾きが、友だちや仲間が眠る墓地で
彼らの魂を想ってバイオリンを奏でている写真だった。

切り抜いて、長い間机の横に貼っておいたその記事も
今の住まいに越してくるときにはずしてしまったけれど
今もそのバイオリン弾きの表情が忘れられない。
無骨な造りの顔に、深いふかい哀しみと、
懐かしい人たちへの優しさと、鎮魂の祈りの清らかさが漂っていて・・・。

私も、東日本の万を超える亡き人たちと
今も行方知れずのままの人たちのために、心をこめて祈る。

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by team-osubachi2 | 2011-04-21 12:40 | 人を描く | Comments(4)

「戦場のピアニスト」

公開時に見に行けなかった映画や、気になる映画を、
テレビ放送があるときに録画しておいて時間のあるときに見ている。
そうして、映画「戦場のピアニスト」を見た。

はじめはあまりにしんどくて、
ところどころ眼を半分閉じたりしながらこわごわと見た。
でも、ポーランドのことについてほとんど何も知らない私は、
もう少し詳しく知りたくなり、何度もくり返してこの映画を見てみた。

・・・すると、この主人公W・シュピルマンという人の
様々な人たちから救われるという、一見偶然のような出来事や、
流れに逆らわずに生きているようにも思われるその向こう側に、
だんだんと「生きる」ということへの強固な意志というのか、
大いなる生命力・・・なんというか、生きるものとしての
強いベクトルみたいなものを感じるようになった。


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ユダヤ人迫害の中をリアルに生きてきたR・ポランスキー監督自身が
映画でこういう表現になるなら、主人公であるW・シュピルマン氏は
この原作である著書『ある都市の死』でどういう表現をしているのだろうか。

生きのびた人のお役目みたいなことかもしれないけれど
奇跡のような生還なればこそ、
伝えられるコトが記されているのではないだろうか。
映画に続いて原作も読んでみようと思っている。

*イラストの無断使用および複写・転載を禁止します

W・シュピルマン「戦場のピアニスト」/春秋社
http://www.shunjusha.co.jp/detail/isbn/978-4-393-49526-1/
by team-osubachi2 | 2011-03-11 00:37 | 人を描く | Comments(2)

石井妙子「おそめ」

昨年の暮れごろだったろうか。
書店に平積みされていた文庫本のカバーに写っていた
着物姿の女性の横顔に、ふと惹かれるものを感じて買った一冊がある。

石井妙子さんの「おそめ」(新潮文庫)は、昭和の戦前から戦後にかけて、
京都や銀座の夜の街に、大輪の花を咲かせた伝説のマダムのおはなしだが、
その世界にはまったく縁のない私は、
これを読むまで「おそめ」という実在したマダムのことは
まったく知らなかったので、たいそう興味深く読んだ。

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生まれ落ちたときから、まわりの男たちに思い慕われ、玉石のように扱われ、
花のように美しく育っていく「おそめ」こと上羽 秀。
京都のみならず銀座にも進出した「おそめ」のお店には、
昭和30年代からの政財界、文化芸能世界のキラ星のような人物たちが
こぞってやってくる様子が描かれている。

その分だけ、他の女たちから受ける妬みや嫉妬は半端なものではないのだけど
石井妙子さんによると、この古風で口がかたい上羽 秀という女性は、
少女のように天真爛漫で一途なところがあるようで、
好きな男と一生添い遂げたことを心から喜んでいたようだ。
宿縁でもあったのだろうけれど、上羽 秀という女性が惚れ抜いた男というのは、
のちに任侠映画のプロデューサーとして
世に知られるようになった男性(あの富司純子さんの父親)である。

綿密な取材によって紡がれた石井妙子さんの文章を目で追いつつも、
私の頭の中はまるで「おそめ」という題名の
昭和時代の映画を見ているかのような錯覚をおこした一冊だった。

*イラストの無断使用および複写・転載を禁止します

石井妙子「おそめ」/新潮社
http://www.shinchosha.co.jp/book/137251/
by team-osubachi2 | 2011-03-02 14:16 | 人を描く | Comments(6)

映画「道」

むかしNHK教育テレビの日曜の夜にやっていた映画番組があった。
若かりしころ、この番組のおかげで何本もの世界の名作を知ったのだが、
そのひとつが F・フェリーニ監督の「道」だった。

最初に見たときは、なんでこういうコトになってしまったのか
とても哀しくて困ったようなキモチになったけれど、
その後、何度見ても、見れば見るほどに
切ないようなやるせなさがつのるばかりだ。

でも、好きなシーンもある。
ジェルソミーナがザンパノの女房(無理矢理だけど)になってほどなく、
バカ野郎のザンパノは、酒場にいたゲスな女と行ってしまって
置いてけぼりにされたジェルソミーナが、翌日になって
町はずれの草地にザンパノを見つけ、死んでるんだか生きてるんだか
顔を覗きこんで、あ、寝てただけか、とホッとした瞬間、
フッと浮かぶ笑顔がとてもいい。
でも、それからまたすぐに途方に暮れてしまうんだけど・・・。


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ジェルソミーナは、ただあるがままを受け入れ、与える愛の人。
人間の弱さも、ずるさも、愚かさも、彼女自身の心の成長とともに
すべてを受け入れられたかもしれないのに、
ザンパノや〜〜い、なんで置き去りにしちゃったんだよォ〜〜。

映画の最後、浜辺で号泣するザンパノ・・・。
アンソニー・クイン、お芝居してるようにはとても見えない。
このアンソニー・クインはザンパノそのものだったのだろう。
ちなみに、「アラビアのロレンス」でのアウダ・アブ・ダイも
なかなか面白くて、そう悪くはないけれど、
やっぱりこちらの方が役者としてはいい仕事のように思う。

ザンパノ、もしもまた生まれ変わってきたなら、
今度はジェルソミーナを大事にしておくれ〜。
・・・って、これってフィクションだっけ。
でも、私にはそう願わずにはいられないお話だ。

*イラストの無断使用および複写・転載を禁止します
by team-osubachi2 | 2011-02-15 01:00 | 人を描く | Comments(4)

いくつになっても

ある日、都心に向かう電車の中で
ふと、シートに腰掛けている
50代後半くらいと思われる女性の姿が目に入った。
髪はナチュラルなままのハーフ・グレー。
うつむき加減に手帳らしきものを覗き込んでいるその手には
みどり色の手袋・・・ん?みどり色なんてめずらしいな。

そう思ってから気がついたことには、
ウールのコートも深い苔色におおきな茶の格子柄で、
紺のスカートの下のタイツもみどり色だ。
そして襟もとには、無造作なようにぐるぐると巻いた
ざっくり手編み風の茶色のショールや、ベージュ色の帆布トートバッグ、
そしてブーツは薄茶色・・・。

自分のお洒落でいつも意識しているのが色の数だ。
2〜3色でまとめるのが好きで、多くても4色程度で抑えるほうだから
この女性の色合わせにはとても心を惹かれた。

ああ〜いいなあ〜、私もこの先いくつになっても、
こういうお洒落を楽しみたいものだ。


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*画像の無断使用および複写・転載を禁止します
by team-osubachi2 | 2011-02-09 00:48 | 人を描く | Comments(4)

『鉄道員』(ぽっぽや)の小説も読んでいないし、映画も見ていない。
だからどんなお話なのか知らないのだけれど、
去年買った坂本龍一&大貫妙子のアルバム『UTAU』で
『鉄道員』(Poppoya)の歌をはじめて最後まで聴いた。

聴いているうちにふつふつとイメージがわいてきて、
何度となく絵に描いてはみたものの、
映画の宣伝で見ただけの高倉健さんのイメージが
ついつい重なってしまって往生した。
(それだけ高倉健さんの存在感ってスゴイんだなあ〜)

何枚か描き直すうちに、・・・そうだ、
私が郷里で見てきた旧国鉄時代の駅員さんたちは、
みんな田舎のおっちゃんらしい顔だったけど、仕事をする姿は
やっぱりシャンとしたものだったよな〜というコトを思い出した。


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ある友だちが、奥田民生の歌詞によるこの歌を、
長年の民生ファンであるにもかかわらず、私同様こないだ初めて聴いて
「なんか、ゴスペルみたいだね〜」と言っていたけど、
うん、これはそんなカンジの歌かもしれない。

*イラストレーションの無断使用及び複製・転載を禁じます

UTAU
http://www.skmtcommmons.com/utau/
by team-osubachi2 | 2011-02-07 00:39 | 人を描く | Comments(6)

映画「ひまわり」

この前、NHKハイビジョンで放送していた映画「ひまわり」を録画して、
後日あらためてゆっくりと観賞した。
小さいころ、テレビで見たことがあるかもしれないが
実はどんなお話なのか、ほとんど知らなかった。

そうか・・・こんなお話だったのか。
男と、女と、そして戦争と・・・。
ああ〜、大人になるってホントにいいなあ〜。
こういう映画に心が動くようになるんだもの。

若かりし頃のM・マストロヤンニの男ぶりも悪くはないけれど、
なんといっても、女主人公を演じているソフィア・ローレンの
この輝くばかりの美しさはどうだろう!?
豊かで逞しくて、烈しいけれども情に厚くて、そして優しい・・・。
同じ女ながら、ほれぼれしてしまった。
それから幾度となく再生させて、何枚かスケッチをとった。
(あいかわらず、似ないけど・・・)

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いくつか好きなシーンがある。
たとえば、新婚の二人が夜中に卵焼きを作るところ。
アントニオが24個もの卵を白い大きな容れ物で溶き、
そこへオリーブ油(?)を注しいれるジョバンナ。
新婚所帯は決して裕福ではないが、台所はこざっぱりとしていて、
テーブルの上には、大きなパンとワインとカゴ・・・。
ただそれだけなのに、なんでこうサマ(絵)になるんだろう?

イタリア人の構図の取り方やレイアウトのセンスはもはや遺伝だろう。
映画のどこを切り取っても絵になっている。

*画像の無断複写および転載を禁じます
by team-osubachi2 | 2011-01-21 00:16 | 人を描く | Comments(10)

ここ10年ほどで、これまでの甘味屋さんとは違い
日本茶を専門に飲ませてくれる日本茶カフェなるものが
ちょこちょこと増えたようだ。

珈琲や紅茶だけでなく、日本茶にもいろいろあるのだから
これまでなかったのがむしろ不思議かもしれない。

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私が何度かお邪魔して、そのつどダベってお茶を楽しむのが
神楽坂の「日本茶 茜や」さん。
もともと仕事で知り合ったデザイナーのあかねさんが
デザイン業のかたわら、自身の想いと腕とを活かしてはじめたお店だ。


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神楽坂のちょいと奥まったところの民家の一階にあるそのお店は
あかねさんの好みが反映されて、和みやすく居心地のいい空間になっている。
彼女の目で選んだ現代の陶工さんたちの器とお菓子でもって、
お客が選んだお茶の一煎目を、あかねさんがその場で淹れてくれる。

そんな彼女は、ときどき依頼に応じて、出張で茶店を出したりもしている。
さぞ大変なことだろうと思うけれど、好きでやってることだから、と
軽く笑いながら、マイペースでお店を続けている。

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たぶん、その肩肘はらないところが、自然とまわりにも伝わるんだろう。
ことさら宣伝しなくても、いまや神楽坂の隠れ家的な日本茶カフェとして
周知されるようになっている。
ん〜ん、たいしたものだなあ〜。

こんな話を書いていたら、あかねさんの淹れてくれる
おいしい日本茶を飲みたくなってきた・・・。
また今度、ゆっくりとお茶しに出かけてみようかな。

*イラストタイトル(上より)/(C) Tomoko Okada
「女ともだちと」
「お茶のあと Ⅳ」
「新茶の季節」
by team-osubachi2 | 2010-10-26 00:01 | 人を描く | Comments(2)

カフェに入るときって、どんなときだろう。
いろんなシチュエーションがあるだろうけど、
たとえば、彼氏と待ち合わせとか、仕事の打ち合わせ。
舞台が始まるまでの時間つぶし、映画を見たあとのおしゃべり、とか。
友だちに悩みを相談・・・ていうのもある、かな。

ある日、仕事の打ち合わせで入った喫茶店でのこと。
時間より少し早く着いたので、カフェ・オ・レをひとり先に頼んで
遅れてくるメンバーを待っていた。
手帳をひろげ、思い出したいくつかのメモなどをとっていたとき、
ふと、なにやら重たい空気を感じて顔をあげると、
すぐ隣の席にいた20代後半と30代前半と思われる二人の女性が、
ほとんど無言のまんま暗くうつむいているコトに気がついた。
そっとだけど、二人共ときおり泣いてもいるようだった。


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喫茶店の小さな仕切りの中の客は、その二人と私の二組だけで、
私は無関心を装いながらも、つい自分の耳がダンボの耳になりそうで
どうにも居心地が悪く、ちょっとばかり困ってしまった。
無理にも手帳にいろいろ書き込んだりして時間を潰しているところへ
ようやく取引先の人が来て、ホッとしたのを覚えている。

その女性たちにいったい何があったのか、こちらは知るよしもないけれど、
私たちがすぐ隣でわさわさと打ち合わせをしている間も
この二人はときどきぽつんぽつんと会話をするだけで、
顔をあげる様子はほとんどなかった。
たぶん私たちが去ったあとも、二人はずっとそうやって
沈み込んだままでいたことだろう。


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人と人とが会っていても、会話がはずむとは限らない。
カフェの中は、そっと見渡してみれば、お客の数だけ、
その人生模様のほんの一瞬が垣間見られる場所
・・・といえるかもしれない。


*イラストタイトル(上より)/(C)Tomoko Okada
「待ちぼうけ」
「ちょっとそこまで、コーヒーを買いに」
by team-osubachi2 | 2010-10-22 08:27 | 人を描く | Comments(3)