しきたりという固定観念

季節はめぐって、いつのまにか暦はもう十月に入っている。
昨日の夕方ザーザー降っていた雨もどこへやら、今朝はお天気がよかった。
でもって、気温も高くなるらしい。予報では30度越え、とのこと。
十月朔日が衣更えではあっても、こと着物での衣更えは近年本当に難しい。

先月末、先だって仕事でお世話になった本の担当編集者さんとお会いした。
いつも洒落た普段着で登場なさる。
この日は千葉の蔵出し、いや、とある蔵から出たという(?)館山唐桟の単衣に
黒地のバティック帯といういでたちでいらした。

f0229926_13591533.jpg

なんて柔らかい色合いの唐桟だろう。
紺白ばかり目がいく私の目にも、やさしく爽やかな色はお顔にもよく映え、
春でも秋でも単衣の季節にピッタリだなあと羨ましく拝見した。
少し薄手の生地は、それこそ一週間ほど続いた蒸し暑い季節には心地よさげで
こんな館山唐桟、私も一枚欲しいものだなあ〜と思ったくらい。

f0229926_13593204.jpg

あら?!足袋がまた洒落てる〜♪
咲き乱れる秋草模様に、なんと「月に兎」が・・・?!

ああ〜、面白いなあ〜、楽しいなあ〜♪
人さまの装いを見るだけでもこんなに楽しい和装の世界であ〜る♡

f0229926_13594713.jpg

けれども、この和装の世界には“着物警察”なるご意見の方々がいるそうで、
そのウワサ話をときおり耳にすることがある。
和装は文化、衣更えやしきたりにはきちんと従って装うべき!というご意見。
ごもっともな部分もあるからことさら否定もしないけれど、
でも、これは扱いが難しいなあ〜・・・と思うことがある。

礼装では、しかるべき場や立場による装いというものがあるので、
しきたりに倣う方がいっそ心強いと思うときがあるけれど、
普段着・・・それこそ、その日その時の陽気にあわせて調節し
快適に過ごすための普段着をお召しの人の着物姿に
強い論調で面と向かって「間違っています」と注意したり、クレームをつけたり、
聞こえよがしに人の装いをネタにお喋りをしたり・・・と、なかなかかしましいらしい。
ま、思うのは自由だし、お喋りするのも自由だけれど、
そういう方々はコワイ顔をしていそうで、出来ればお目にかかりたくはない。

もっとも、これまでそういったご注意をいただいた覚えがない自分は
衣更えなど、どちらかといえば勝手にゆるく受けとめている方なのだけど、
世間の「であらねばならない」という固定観念と、「でなくてもいい」という寛容さは
まるで夏の暑さと秋の爽快さとのせめぎ合いのように、なかなかすぐには融合しそうもない。

地球温暖化という現象は、近年の研究によれば、夏の平均気温はますますあがり、
逆に冬の寒さは厳しくなって、あわいにある春と秋とが短くなってゆくもの・・・らしい。
たとえば、今の時期、東北や北海道と、九州や沖縄など
北と南でこんなにも気候風土が違う日本であるし、
昨今の温暖化であきらかに昔とは異なる今の時代に、
かつていにしえの京都や東京などで定まったらしい衣更えの枠を全国一律に、
それも日常着にまでがっちりあてはめなくてもいいんじゃないのかなあ?と思ったりする。

f0229926_14011334.jpg

私個人は、ただでさえ着物を着る人口が減っていっているいま、
しきたり云々を知らせねばときつく注意することよりも、
人が着物を着ていることを嬉しいと思ったり、
似合っているのを褒めたり、組み合わせが素敵だと言うほうが、
どれほどこの絶滅しかかっている衣服の未来に有益だろうと思うのだがどうだろうか。

もしもこのブログの読者の中に、きつく注意されて悲しくなったり
凹んだりした経験がある人がいらっしゃるなら、一度落ち着いてそのときのことを思い出し、
もしも言われた言葉の中に、自分で思い当たることがあれば
それをぜひお洒落心の糧にしていただきつつ、
一方で、嫌な思いはそっくりそのまま台詞を吐いたコワイ顔の人へ
心の中でそっと「お戻し」すればいいと思う。
コワイ顔をした人と同じ土俵にいてはいけないのである。
経験を恨み事にしないためにも、さっさとその土俵を降りて、
ご自分は着物の良さ、嬉しさ、幸福な喜びを抱いて、
そしてその喜びをまわりの人にも分け与えられる人に成っていただけたらと思う。

f0229926_14003912.jpg

しきたりやルールとは、それを持たないうちは人に教わるしかないのだけれど、
そのしきたりやルールに縛られて身動きできなくなるようでは本末転倒というものだ。
何年か前のこと、私よりも少し年上世代の方で、
夏の初めに着物を着ていて熱中症になられた方の話をうかがったことがある。
洋服での対応以上に大変(厄介)だったそうだ。
以来「無理するのはやめた」とその方はおっしゃっていた。
礼装の場のことではなく、普段の暮らしの中で着るものは
洋服で考えればすぐわかるように、暑ければ涼しく過ごせるようにし、
また寒ければあたたかくすごせるように考えて着るものを調整する。
着物の普段着もそれと同じことでいいんじゃない?
だって「着る服」なんだもの。

以前人さまから頂いた単衣・・・藍色の暈かしにさらに絞りが加えられた生紬。
先月はちょっと足の不調で着物を着るのを控えたりしたものだから
今月、そうだなあ〜、あと半月ほどの間、ちょっと蒸すような日があれば、
この単衣に袖を通したいものだ。さて、帯はどんなのをあわせたらいいかなあ〜♪

・・・と、ここまで記したところで、開け放った窓からモズの高鳴きが聞こえてきた。
もうそんな季節になったんだなあ。
空気は朝よりも湿気ってきたようだ。思ったほどには気温はあがらなかったような気もするけれど、
じっとしていても汗ばむときもある。台風も近い・・・。
いまはまだ旧暦の九月。なんだかんだと衣更えは悩ましい季節である。

Commented by 香子 at 2016-10-04 20:54 x
着物警察って、うっひゃあ〜(笑)
以前は「お直しオバさん」とか、そんな言葉でしたけど。
着物姿がマジョリティーからマイノリティーになるにつれ
そういう一過言言いたい方が多くなってくるみたい。
どんどんキビシくなっていってるような… (^-^;;
で、けっこう着物着ない方がそういう事言ってたりして(爆)
Commented by fuko346 at 2016-10-04 23:24
そうですよね。
ここまで気候が違ってしまったら それに合わせて 決まりごとも ゆるやかに 人に添わせなくては。
ホテルで着替える とかの場合は別として、礼装もお茶会も もっとゆるやかにしないと 誰も着れなくなってしまいます。
面白いなあと思ったのは、去年あたりに お茶会は九月は単衣、と言っていた人が 今年は 前半は夏物でも と言いだしたことで、あら、宗旨替えなさったのね、と。
大寄せのお茶会も もっとゆるやかでいい、と思っているのでした。
しかし10月に30℃超えとなると もうお手上げで、どうしたらいいのか 遠い目になってしまいます。
Commented by team-osubachi2 at 2016-10-05 07:15
香子さん
どなたが言いはじめたのか、ある意味、上手いこと言うなあ〜、と。苦笑
物言う方には、いろんなパターンがあるのだろうと思うんですけど
自分が習った教えの通りでなければという縛りは、
本当は「あなた自身を縛って不自由にしていますよ」ってことなんですけど、
人にきつく言う人ほどそこに気がついてないんじゃないかって思うんですよねえ。
アラアラあなた帯が・・・ってお直ししてくれるおばさんはまだ優しい方かもですね。笑
Commented by 朋百香 at 2016-10-05 07:22 x
tomokoさま
私もtomokoさんに賛成でーす!
着る人が減っていくのでは、いくら文化と言っても本末転倒ですよね。確かにしきたりも大切とは思うけど、例えば昔の人ってもっと自由に着ていたと思う。私の祖母もきもので生活していましたけど、ゆる〜く自然でしたよ。暑ければ涼しく着るし、寒ければ暖かく着るし、着物ってそういうものじゃないでしょうかねぇ。目くじら立てて、あれがダメこれがダメという人はなんか勘違いしているのでは?そもそも着るモノなんですから。洋服でも着物でも自由に着る、これが私ですけど何か?と涼しい顔で着こなしたいです。
Commented by team-osubachi2 at 2016-10-05 07:28
fukoさん
昨日は32度くらいいってたらしい関東です。
エアコンが効いている空間はまだしも、たとえばエアコンなしの空間で茶の湯をなさる茶道のお家元や家元夫人方は、こういうときどうなさっていらっしゃるのかなあ?といつも思っていまして、本当のところをうかがってみたいです。上の上の方々が率先して変えてくだされば一番早い気もするのですが・・・とは、私個人の考えです。

先日買った田中敦子さん編著の『きもの宝典』の中に山崎豊子さんの昔のエッセイほ一篇が衣更の悩ましさについて書かれていて、こと大阪商人の更衣の厳しさは、なんと京都から嫁入った夫人が、更衣のしきたりを間違え世間の笑い者になり離縁されたっていう巷間話も書いていらして仰天しましたが、さすがに洋服時代のいまそんな阿呆な話はおきないかもですが、着物世界に浸透してしまっている固定観念は根強いものがありますね。ある意味、その固定観念も含まれたうえで滅びゆく衣服・・・なのかもしれませんが、う〜ん、それではやっぱりダメでしょう。なんとかして生きのびて欲しいものです。
Commented by team-osubachi2 at 2016-10-05 07:45
朋百香さん
ねえ、ほんとに。なんのための衣服か、誰のための着物か、
まして「太陽暦」に目くじらたてて人を責めても、この着物という衣服の良さは広がらないのですよねえ。
しきたりは私も大切にしたい。でも、大切にしつつも、その教え方、もっと柔軟に、、、と願いたいです。
もはや大和朝廷や江戸幕府の典礼の時代ではないのですから。笑

私たち(?)のように、何を言われても(とはいえもしも言われたら不快に思うには違いない)免疫がある人は大丈夫ですが、これから着物を着ようという若い世代に、これこれ古のしきたりがあって、でも現代においてはこう変化の途上にあるということを(取り締まったり、責めたりするのではなく)上手に伝えていって欲しいものですよね。
Commented by sachiko at 2016-10-05 21:46 x
そうなんですよね・・・ 以前お茶会の折「あら・・・ 単衣!」キツ~イ視線感じました
「普段着でお気軽にどうぞ・・・」とおっしゃる先生の大寄せの茶会
30℃超えの暑さに 万筋の単衣・襦袢は薄物で
皆さま 袷でしたね~  
1人だけでしたので ちょっと焦りましたが お茶事ではないし 大寄せですので
その視線はスルーしました (*^^)v

久々に明日は友人にお誘い受けて茶会
ご一緒する友人に合わせ(たぶん袷だと思うので) 胴抜きの袷でコーディネイト

その時々 お出かけ先などで自由な発想でお着物楽しみたいものと 思っています
Commented by team-osubachi2 at 2016-10-06 07:28
sachikoさん
「熱中症で倒れるくらいなら、いっそ単衣でよろしい」をスローガンに。。。と思う私です。
(その単衣を観る視線の中には、「私も単衣にしておけばよかった)なんて方がいらっしゃらないとも限らない・・・なんてことはないですかねえ?/笑)
九月は紗紬の下に濃い色の夏襦袢などで、透けにくく盛夏ものを着る、とか、背に肚は変えられぬという時のために、胴抜きの一つ紋の色無地などあるといいのかもですねえ。・・・な〜んて、私の場合、もしもいつの日か茶道のお稽古を再開するようなことがもしあれば・・・ですが(^ ^;;
いずれにしても、西日本の暑さは尋常ではなかったはずで、あちら方面や首都圏から実質的にどんどん変化してゆくといいですね。

Commented by きなこ at 2016-10-12 18:58 x
いつも楽しく拝見しております。昨年末よりようやく自力で着物を着られるようになり、目下、着物熱に犯されている状態の者です。「着物警察」にちなんで一つ質問があります。
着物での外出の際、必ずコートを着なければいけない・・という人がいるのですが、そうなのでしょうか?  冬は寒いので(見た目にも)道行+ショールなど必要と思うのですが、夏や単衣の時、今時分でも塵除けなるものは必須なのでしょうか? 着物上級者の方のご意見をお聞かせ頂ければと思い書かせていただきました。お手すきの時にでもその件に触れて頂ければと思います
Commented by team-osubachi2 at 2016-10-13 09:56
きなこさん
こんにちは。今日はグッと冷え込む朝になりましたね。
ようやく袷が着やすい、というか、もう羽織ものが必要かもと思うくらいの(涼しいというよりも)寒さです。

ご質問ありがとうございます。
私個人の意見でいえば、「羽織るもよし、羽織らぬもよし」です。
人によっては「電車の背もたれや人混みの中で帯(とくにお太鼓)が汚れるのを防ぎたいから」という方もいらっしゃいます。
ナルホド〜とは思うものの、気温30〜35度の中、絹や化繊の着物など、着る者にとって「涼しい」などとはとても言えない代物に(雨でもない日に)コートや羽織の姿は、正直言って「涼しそう、というより倒れそう」に見えます。
実際見た目にも、羽織らない着物姿の方が涼しそうに見えませんか?
初夏や初秋になると、多少透ける羽織やコートをお召しの姿に、ああ、お洒落でお召しなのだなと思ったりしますが、そこは気候とご自分の体感にあわせてフレキシブルに。晩秋から春の寒さまでのコートや羽織は言わずもがな。
夏場の羽織ものは必須ではなく、個人の好みでお召しになればよいと思います。
なので「羽織るもよし、羽織らぬもよし」です。
なんといっても、着物や帯に大汗かいて手入れに出す代金を支払うのは自分です。
(ちなみに、電車や劇場など襟首に冷気があたって具合が悪いので、私的にはコートよりも夏向きの薄いショールの方が稼働率が高いです)

人それぞれにマイ・ルールがあっても一向に構いませんが、「必ずコートを着なければいけません」と人に伝え強いるよりも、まずは「訪問先へ伺ったさいには、羽織は着たままでも構わないが、コートは必ず脱ぐこと」ということを教えることの方が大切と私は思っています。

そうですね、いつか薄いもので羽織やコートを仕立てたら、こんな話題も盛り込むかもしれません。
(洗張りはしてあるのですが、いまだ仕立てに出せずにおりまして・・・(^ ^;;)

すっかり長くなりましたね。どうぞご参考までに・・・。
Commented by きなこ at 2016-10-13 17:57 x
知子さま ご丁寧にコメントを頂き感激です。まだまだ自分の知識や着こなしに自信がなく色々な意見に混乱しがちなのですが、ゆったり気分で着物を楽しめるよいお話を伺えたと思います。「着物警察」・・できれば捕まりたくないものです。 有難うございました。          きなこ
by team-osubachi2 | 2016-10-04 16:53 | 着物のこと | Comments(11)