田中昭夫さんの藍染め

職人のムスメで育ったせいか、職人贔屓である。
昨日、川口市にある正藍型染師・田中昭夫さんの
最後の展示会を見に行っての帰り道、
ふと、いったい一個人の職人が自ら引退を決めるとき、
どういうカタチで、どういう状態で現役を終えるのが理想なのだろう?
そんなことを思った。

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いま川口市立のアートギャラリー・アトリアで
川口市で仕事をしてきた職人四人の作品や道具を紹介している。
(*この展示は終了しました)

その中のお一人、藍染め職人の田中昭夫さんが
体力の限界から現役を引退されるということで、
38年も前から田中さんの仕事を見ている染織家の津田千枝子さんとそのお仲間が
田中さんの藍染めの、それこそ無骨で一途で尊い仕事ぶりとその人柄を惜しみ、
世に埋もれたままおしまいになってしまっていいのか、と
その思いに強い衝動が走ったようで、
ネット上で「田中さんの仕事を見て欲しい」と呼びかけたところ、
わずか数日でそれは思いがけない波となって
それまでごく静かだった田中家にドッと押し寄せた。
想像だにしなかった事態になって、あわてた津田さんたちは考え、
田中さんと相談した末、有志の見学ツアーを設けることにしたのだった。

そういう事態をFacebookで知った私は、ツアー開催2回目の昨日、
うちからは遠い川口市までちょっとした遠足気分で見学に行ってきた。

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まずは染織家の津田千枝子さんが私物の田中裂れをツアー参加者に披露し、
田中昭夫さんのこれまでの経歴や、
彼との出会いのキッカケなどをお話なさった。

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ツアー用に用意された田中裂れは自由に見たり触らせてもらっりした。
きけば厳しい暮らし向きであるのに、選んだ素材は
越後の上布などの麻あり、しな布あり
日韓双方の手引き木綿であったりと、集められた布は
ことに泥臭い田中さんの藍をしっかりと受けとめることが出来るよい布ばかり。

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そのあと路線バスに乗って、田中昭夫さんの工房へ移動。
道に面した建家の奥にまわると、戸外の作業場や畑や大釜
雑多でいろんな草木の生える庭があり
小屋の藍甕と別棟の板場を見学させてもらった。

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染織のくわしいことはここでは記さないけれど、
人工藍よりも10倍も高価で、人工藍の10分の1しか生産できない本藍を
しかもこだわって仕入れた布に染め上げてきた田中さんは御歳79。
はにかみながらひょいと登場されたお顔は東北人の肌色をしてらした。

どんな人物かは「けろ企画」さんのブログ記事を読んだ方がわかりやすい。
「正藍型染師田中昭夫さん」
http://kerokikaku.exblog.jp/21204568/

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最初こそは一瞬はにかんだような戸惑っているようなお顔でも
仕事の話になると目の色が変わる。よくお話になる。
広巾の型紙なども広げてみせて質問にもいろいろ応えていらした。

型の糊置きに使われる長板は重そうだ。
これに重い木綿を張り、二重に糊置きして伏せてなんてやっていると
大の男でも重いと感じる重量になるそうな。
田中さんは引退を覚悟された。

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ひとしきり見学を終えたところで、展示室に移動した。
昨日は何人いたのかわからなかったけど、大多数の女性はその展示室に入るや
みな相当に興奮してしまい、ちいさな展示室はしばし騒然となった。
なぜならそれら田中さんの作品がものすごく廉価(?)で買えるから。

このツアーに参加した人たち全員この記事を見ているハズである。
「布とお茶を巡る旅」さんの「第1回・田中昭夫さん自宅展・番外編」
http://nunocha.exblog.jp/22872440/

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越後型が大好きな私もたいそう興奮したのだけれど、
しばし喧噪からちょっと身を引いて、
壁や棚に展示されたものをあらためて眺めていたら
可憐なカタバミの花と目が合った・・・!?
「ねえねえ、私を見て!見てぇ〜〜〜!!」

・・・ヤバい。いったん目をそらしたのだが、また呼ばれる。
「ねえねえ、私を連れて帰って〜〜〜!」

う〜ん、と思いながら側に寄って札を見てみたらば
1993年の日付と“韓国手引き木綿、帯”と生地の出自が記してあった。
21年も前の藍はコックリといい色に落ち着いていながら今もきらきらしている。
藍の濃さを三段階にして何度も甕をくぐった布はすこぶるいい手触りだった。
田中さんにお値段を教えてもらった。
わ、ありえないっしょ!?・・・と思ったらもう駄目だった。

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こういう言い方をしていいのかわからないけれど、
展示室の暖簾のとなりにある田中さんの居室はちんまりと古く寒そうで
すこぶる質素な暮らしぶりがうかがえた。

藍染めに携わって半世紀、人工藍をやめて本藍にこだわって奔走し、
自分に嘘のないその仕事の貴重さをわかって支持してくれた
染織の先達や見巧者もすでに世におらず、日本人ももはや着物を着なくなって
「自分は100年生まれるのが遅すぎた」などという頑固一徹で愚直な染め職人が、
これで仕事をおしまいにするというときに、
この私にも出来るのは「買う」ことだ。

職人の作りあげたものを見て気に入って買う。
そして、現金が職人の手にわたる。
シンプルだけどこれはすごく大事なコトなの。

応援団の一人・田中敦子さんとお話をしていて聞いたところによれば、
「目標はね、田中昭夫さんと奥さんが
せめてゆっくり温泉に入ることができるくらいは・・・」とのこと。
どうかそのささやかな願いが実現しますように。

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田中昭夫さんのゲリラ宣伝隊の方々

型染め/津田千枝子
http://chiekotsuda.com

布とお茶を巡る旅*第2回目の報告記事あり
http://nunocha.exblog.jp

けろ企画*第2回目の報告記事あり
http://kerokikaku.exblog.jp

第3回目のツアーも盛況のうちに終了したそうです。
あらためて頒布会も企画されているみたいですよ。
ご興味のあるかたは宣伝隊の今後の動向に注目です!
Commented by セージグリーン at 2014-11-12 15:17 x
まぁ、カタバミの模様なんて、珍しい、、、優しげでモダンで大胆で、素敵です。
違いの分かるTomokoさんのところにお嫁入りするために、
20年も眠っていたのですね。
こんな機会に、優れた職人さんの手によるよいものを、少しでも多くの方がお買い上げになるといいですね、、、。
Commented by 津田千枝子 at 2014-11-12 16:23 x
岡田さま。昨日はありがとうございました。
そして、こんなに素敵な文章を書いて下さって本当にうれしく読ませていただきました。読みながら、涙が止まらず いままだ ズーズーしながら、これを書いています。
田中さんのお仕事、お人柄を 少しでも知っていただけたらと余計なおせっかいをして、途中では 寝られないくらい心配しました。でも、このおせっかい、やっぱりやって良かったと思います。皆様に心から感謝。
カタバミは、田中さんの家紋だそうですね。おおらかで、素敵な柄だと思います。
本当にありがとうございました。
津田千枝子
Commented by 朋百香 at 2014-11-12 20:02 x
tomokoさま
んー、いいお話。
私もね、日本を元気にするのは職人さんだと思うのですよ。
ずーっと長い間、それが日本を支えてきたのだから・・・。
もっと優遇されても良いと思うんですが・・・。

カタバミのおきもの、素敵! tomokoさんよくお似合いに
なりそう。仕立て上がるのが楽しみですね〜。
Commented by 香子 at 2014-11-12 22:58 x
今は藍を育てる農家さんが激減してるんだそうですね。
この夏頃「藍を作ってもいいって言う農家さん知りませんか?」って
話があったんですが、ワタシも知り合いがいなくって。。。
藍染めの作家さんも大変な事ですねえ。
Commented by team-osubachi2 at 2014-11-12 23:11
セージグリーンさん
カタバミは可憐なお花を咲かせますが、葉っぱも可愛いですよね〜♪野の草大好き我が家ですので、わざわざ種をとってきて鉢いっぱいに育てた(?)年もありました。って、放っといても生えてきますけども。笑
この日本は数知れない職人さんによって物作りが支えられていますし、一人でも多くの職人さんが報われるよう願うばかりですよね。
Commented by team-osubachi2 at 2014-11-12 23:34
津田千枝子さま
コメントをありがとうございます。お恥ずかしいかぎりです。
そして、こちらこそ、この度はこのような機会を設けてくださってありがとうございました。おかげさまで自分の引出しの中がまたひとつ豊かになったような心地がしています。
津田さんのそのおキモチこそがみんなを動かしていますね、素晴らしい機動力と思いました。これは私勝手で生意気な感想ですけども、これまで控えていらっしゃったのを取っ払って、今こそおせっかいのしがいのあるタイミングで、またお世話のしがいのある田中さんのお人柄だなあ〜と感じ入りました。
カタバミ、そうですか。家紋ですか。あのカタバミの帯、昨日うちに帰りましてから野の草好きの旦那にきいてみたらば、カタバミは種類によって春から秋ごろまで花が咲くと調べてくれまして、春と秋それぞれに愉しめるなあとワクワクしています。ようこそ!私のところへ来てくれてありがとう!ってギュ〜っとしちゃいました。笑
お忙しい最中とお察ししますが、どうぞ15日も道中お気をつけて行ってらしてください。そして一人でも多くの方に田中さんの手技を見て、手にしていただけるよう、ご盛会をお祈りしています。どうもありがとうございました。感謝。
Commented by team-osubachi2 at 2014-11-12 23:42
朋百香さん
>日本を元気にするのは職人さんだと思うのですよ。
ずーっと長い間、それが日本を支えてきたのだから・・・。
ホントホント、そう思いますです。それはなにもこういう生活上の工芸だけでなく、工業分野にいたるまで、普段は知られていないところでたくさんの職人さんが働いてくれてるんですよねえ。下支えの薄っぺらい国はどこか脆い気がしてしょうがありません。でも、薄っぺらくなってきてる?日本?
そうそう、これ着尺ではなく、帯なのです。どれに合わせようか愉しみですけども、いかんせん、虎の子を放出してしまいましたので、まずは仕事をします〜。お仕立はそれからで。笑
Commented by team-osubachi2 at 2014-11-12 23:53
香子さん
うわあ、藍を育ててくれる農家を探すのって、藍染めしてる方を探すのよりも難しそうですねえ。
着物の分野ひとつとっても職人さんの道具を作ってくれる職人さんがもういないって、もうずいぶん前から聞きますし。
どうしたら世の中にはいろ〜んな職がバラエティにあるんだって知ってもらえるのかなあって思うことあります。
でもってどうしたらちゃんと食べていけるのかなあ〜って。
私なんぞが心配したところでどうにもならないんですけども、考えちゃいますよねえ。笑
Commented by fuko346 at 2014-11-13 12:36
美しい布が ともこさんの手に渡って、帯として生きて、
人目に映って、、、
この一連の生地を読んでいて、この企画がなかったら、
素晴らしい布たちは いったいどうなってしまって
いたのだろう、、、と怖いような気持ち、でした。
ネットというツールが出来て ほんとに布が好きな
人たちが押しかける、知っていれば 欲しい人はもっと
たくさんいるでしょう。
私も行きたい~~~です。
手仕事を奉ってしまうの方向では、普通の人の手には
届かなくなり、結局は消えて行ってしまう方向へ、、、
あ、すごく長くなってしまいそう ここらでやめておき
ます 笑
お世話なさった方の努力に頭が下がります。
Commented by team-osubachi2 at 2014-11-14 22:37
fukoさん
ああ、fukoさんにも触っていただきたいこの布です。
ホントに、今回のこの企画がなければ、この布たちはどうなったでしょうねえ?でもきっといつか日の目をみることになるに違いないです。と思います。だって布自体にとってもチカラがあるんですもん。とはいえ、やっぱり生みの親がまだお元気なうちに日の目をみてよかったですよねえ〜。

>手仕事を奉ってしまうの方向では、普通の人の手には
届かなくなり、結局は消えて行ってしまう方向へ、、、
はい、そういう面ありますですね。良くも悪くも諸刃の剣。
いま昭和の工芸を担った人たちが高齢で、その先はどうなってゆくのか・・・見守りたいです。
by team-osubachi2 | 2014-11-12 14:16 | 着物のこと | Comments(10)