もとは布団皮の帯

今から20年くらい前のこと、
都内のホールで、ある舞踊家の舞のリサイタルがあり、
そのロビーで佐野洋子さんの姿をお見かけしたことがあった。
当時、佐野さんは大橋歩さんと高田喜佐さんらとともに
お着物に凝っていらして、あの独特の風貌に
伊兵衛織工房のひと揃いがとてもお似合いだったのを覚えている。

その佐野さんがまだ谷川俊太郎さんとご一緒だったころ、
お着物で雑誌に登場された姿が私にはことに印象が強くて、
久留米絣に、違うトーンの藍染めの帯を締めてらして、
うろ覚えで確かなことではないのだけど、
たしか谷川さんに買ってもらった帯と記されていたのではなかったろうか。
(勘違いしていたら、ごめんなさい)
着物に夢中で、帯を指して「これ、古い布団だったんだって〜」・・・と、
そんなようなことをインタビューで
茶目っ気たっぷりにお話していらした記事だった。

紺絣の着物に、古い藍染め(それも布団皮!)の帯をあわせるというのが
まだ20代だった私の目にはすこぶる新鮮で素敵に思えた。
そうか、布団皮、ふとんがわ・・・ね!!
それからというもの、古い藍木綿をあちこち探してまわったけれど、
柄ゆきもよくて状態のいいものは安くない上に、
名古屋帯一本分の長さにはぜんぜん足りないものばかりだった。

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当時、渋谷の某デパートに銀座の『むら田』さんが出店していて、
催事をのぞくついでにちょこっと立ち寄ってみたらば、
『むら田』さんお得意の仕立て上がったアンティーク更紗の帯の中に、
この布団皮の帯があった。うわ〜、地味だけど好きだ〜!!
古い藍染めの布に思わずひと目惚れ〜 ♪ であった。

お店の番頭さんが説明してくれた。
「これは木綿の、もとは布団だった布です。
こういう古いのは布が足りないことが多いんですが
これは十分長さがありましたので、
こちらではぎあわせて名古屋帯に仕立てたものです。
明治になって織機が導入される前の木綿なので
たぶん江戸末期くらいのものじゃないかと思います。
手で紡いだ糸ですよ、ほら、こんなに細いですが、
よく見ると糸の調子が違うでしょう?
それからこの薄茶の部分は、たぶん紅花が退色したものだと思います」
と、およそそんなお話をしてくれたのだった。

おそるおそるお値段を見てみたらば、
自分で古裂を探し集めて仕立てるのとそう変わりない手頃さだったので
ずいぶん地味だったけれど、身請け(?)することにした。

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昔、江戸時代の長屋暮らしの人たちは
いつも大風呂敷を敷いておき、その上に布団を畳んで置いたと聞いた。
貧しい庶民にとって布団というのは身代(しんだい)だ。
火事が多かったから、いざというときに自分の身代である布団を
すぐにくるんで持ち出せるようにということらしい。

いつの時代にどこで生まれたものかわからないけれど、
火事にあうこともなく生き残った古い布団皮の一枚は
帯に生まれ変わって、いま自分の手元にある。
「もの」のたどる時間と空間とご縁の不思議さを想う。

あんまり地味で、二三度締めたあと寝かせておいたこの帯も
最近また「出番ですよ〜」と箪笥の奥からひっぱり出してみた。
寒い時期に袖を通せるよう、あえて袷に仕立ててある
大好きな井桁もようの久留米絣に、この帯をあわせることが多い。
木綿 on 木綿・・・手紡、手織りの木綿は少々重いけれど、
この冬のような寒い時期には
抜群の保温性を発揮してくれて心強い温もりがある。

かつて佐野洋子さんの装いに憧れたのは20代後半の私。
気がつけば、当時の佐野さんに、年齢だけがどんどん近づいている。
Commented by 朋百香 at 2013-01-16 10:04 x
tomokoさま
いいですね〜、この渋さ。
紺絣に藍の組み合わせも、私には新鮮です。
きものと反対色の帯をもってくることが多いので。
「ふとんがわ」なかなか奥深いですね。
tomokoさん作の梅の帯留めが効いてます。
さて、これをお召しになってどちらへ?
Commented by ake at 2013-01-16 10:53 x
いいお話を聴かせていただきました。
その当時のお若いTOMOKOさんがちょっと背伸びしてお三人さんをご覧になっている姿と思いが素敵な記述です。

わたしも次世代の方からそういう風に見られるひとになりたいものです。
いいエピソードをありがとうございます。
思いが籠った藍木綿、きっとお似合いになられこと間違いなし、また拝見させてくださいね。
Commented by team-osubachi2 at 2013-01-16 12:22
朋百香さん
もうシブッ渋の組み合わせかもですねえ(笑)。もっと年齢がいったら灰色無地のあの結城に合わせたいなとも思っています〜(さすがに今はまだちょっと)。最初に私が見た佐野洋子さんの組み合わせは、今思い出してもすごく新鮮なものに感じます。
布団皮、いいものですよ。何年か前、ネットで四巾の大きな格子の布団皮が数千円で出ていたのをタッパのある友だちがゲットして帯に仕立てました。藍と茶と白の格子がモダンな格子木綿でした。ただ、布巾が若干狭いのが難点ですが、ぎりぎり八寸巾に仕立てあがったようです。

>さて、これをお召しになってどちらへ?
はて、落語を聴きに行こうか、長平庵へ行こうか・・・そんなところでしょうか〜(笑)
Commented by team-osubachi2 at 2013-01-16 12:36
akeさん
この佐野洋子さんの姿をお見かけした舞のリサイタルの会で鶴見和子さんに最初にお会いしたのでした。今も忘れません、藍大島にでっかいターコイズのトルコ石の指輪に、ご本にも紹介されている黒地に青い細縞のメキシコ木綿の帯でした。「カッコイイ〜〜!!」シビレました。
私が若かったころは、カッコイイ着物姿の(うんと大人の)方々がまだまだご存命で、私の背伸びも大層なものだったんだなあ〜と赤面する思いですが、でも、それくらい素敵な方々がギリギリ世にいらした時代でもありました。
akeさんの溌剌としたお着物姿に憧れる方々はたくさんいらっしゃると思います。これからもどんどん若手をリードする先達としてご活躍くださいませ〜!あ、ぜひぜひキャンパスへも着物デビューを!近々であることを願っております。^_^ )/
Commented by ハル at 2013-01-16 22:05 x
リアル佐野洋子さんにお会いになったなんて!なんて羨ましい。佐野さんの書かれるもの(絵ではなく、文章のほう)が好きだったのです。
着物道楽について、困った、欲しくなるとどうにもならない、みたいな楽しいエッセイを書かれていましたっけ。

この帯は素敵ですねえ。いい染め。織りもいいなあ。私は着物を着ないので残念ですが、こんな古い手織り布を見たら素通りできやしません^^
高田喜佐さんも佐野洋子さんも、あちらへいかれてしまいましたね。あの方々が大活躍なさっておられた時代が懐かしいなあ。

帯留め、もしかして、「手彫り」の梅、でしょうか?
Commented by team-osubachi2 at 2013-01-17 00:12
ハルさん
いえ、お見かけしただけでしたが、遠くからでもすぐにわかるくらいの存在感でした。私は少々のエッセイと『100万回・・・』くらいしか読んでないんですが、面白い方だなあ〜と思ってました。
>高田喜佐さんも佐野洋子さんも、あちらへいかれてしまいましたね。
私も同じことを思いまがらこれ綴っていました。

>私は着物を着ないので残念ですが、
ハルさん、上っ張りとか着ませんか?昔は着物の上っ張りみたいなのを野暮ったく思ってたりしたんですが、家の中ではあったかくて結構使えるなあ〜と見直しています。和の布はやっぱり着物系の衣服にすると収まりがいいような気がしています。
着物はね、やっぱりいいですよ〜♪ ちょっとビョーキかも?ってくらい今もかわらずお熱です。写真にちょこっと写っている梅の帯留めは、さいです、私の手遊びです。また気が向いたら何か彫ってみようかな♪
Commented by sogno-3080 at 2013-01-17 07:42
こんな素敵な布団皮の布団で眠ったら、どんな素敵な夢が
見られるかしら?なんて思ってしまいました。
帯に仕立てられてもその魅力は変わりませんね。
私にとっても震えがくるほど?!好きな色柄です。
むら田さんって、鶴見和子さんの例の本に出てくるお店
ですかしら?
Commented by team-osubachi2 at 2013-01-17 08:07
sognoさん
ね〜、こんなお布団、どんな風に寝てたんでしょうね〜?
骨董市なんかでもよく見かける布団皮の良い物は多色染めで、上方の堺なんかで染められていたのが出回ってたりしました(40cmほど買って古袱紗を自分で縫ってお茶のときによく愛用しました)。布団皮とはいえ、いろ〜んな和更紗があって、コレクターが飛びつくはずだあ〜ってくらい素敵!そんな高級品はまだ状態がいいんですけど高くて長さも足りない。庶民が使った縞や格子のものは、はぎ合わせとか穴を繕ったあととかがいっぱいあって、帯に出来るようなものを時代裂屋さんや骨董市で自力で見つけるのは困難でした。・・・で、結局買った方が早かった(笑)。

鶴見先生が贔屓にされていた増多屋さんはもうないようですが、銀座むら田さんはまだ健在(デパートの出店はなくなりましたが)。こないだも銀座に出たときにお店の前を通ったら名物の女将さんが店頭にいらっしゃいました。ちいさなショーウインドウに飾ってあるのを見るだけでいつも満足して通り過ぎる私です(笑)。
Commented by ソラカラ at 2013-01-17 13:08 x
うわぁ、いい柄だなぁ。
私もこんな帯欲しいです。
なかなか色・柄が気に入る生地ってないですよね。
Tomokoさんに似合いそう。
Commented by team-osubachi2 at 2013-01-17 15:41
ソラカラさん
いざ探すとなるとホントにいい布に出会うってとても難しいですねえ。骨董市でも、コレクターの嗅覚にはやっぱり叶わないですし。
おばあちゃんになるまで締められそうで、大事にします。
ソラカラさんとこに届いたショールなど巻きものもすごくいいですね〜♪
私も格子のあんなマントが欲しい〜。
Commented by 櫻子 at 2013-01-18 00:09 x
きゃあ〜、いいですね〜〜〜
大好物な感じです♪
また骨董市に行きたくなっちゃうなぁ。
Commented by sachiko at 2013-01-18 14:33 x
素敵な組み合わせで 長平庵・・・
良いですね~♪
さわさわ・・・& 直に拝見できたらうれしいです

ほんと・・・ 良い布に巡り合えたのですね
素敵な帯です ツボで~す

Commented by team-osubachi2 at 2013-01-18 15:59
櫻子さん
写真じゃ伝わらないんですが、布の感じがね、たまりません。すっごい摩擦係数高くて、ぜんぜん緩まない帯です〜。
骨董市めぐり、たまに行くと面白いですよねえ。
Commented by team-osubachi2 at 2013-01-18 16:03
sachikoさん
長平庵、いらっしゃいますか?こちらは木曜の午前にうかがうのですが・・・。今年はいつまたお目にかかれますでしょう♪
お出かけするにはごくごく普段着の着物ですが、
好きな組み合わせですう〜♪
Commented by はつき at 2013-01-18 23:09 x
あら?昨日、アンティークモールに用事があって(買い物ではなく)出かけた先に、もう少し赤っぽい色が入っていたものの、似たような柄の帯があり、「江戸時代末期の木綿なんです」と教えてもらったところでした。そのおびは、やはり布が足りなかったようで、一部、別布ではいでありましたが…。 布団皮だったんでしょうか?偶然のタイミングの良さに驚いています。
Commented by team-osubachi2 at 2013-01-19 00:07
はつきさん
探してみると、こういう布団皮の木綿、染めでも織りでもいろんなバリエーションでたくさんありますね。
でもホント、出来も良くてコンディションも良くても長さが足りないので、割り切ってお太鼓、前柄だけにすると決めたなら、いい裂で作れますし、はつきさんもおひとついかがですか~?♪( ´θ`)ノ
by team-osubachi2 | 2013-01-16 07:54 | 着物のこと | Comments(16)