余白にあるもの/『あ・うん』より

先日の個展に出した作品の中で、いちばん多く描いたのが
『あ・うん』を題材にしたものだった。

実をいえば、たまたま『あ・うん』を手はじめに描きはじめたせいで
点数が増えてしまっただけの話なのだが、
ひとつの世界をいろいろと描くうちにはじめて気付いたことがあった。



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もともと好きでよく見ていた日本画や水墨画。
たとえば庵の階にたたずむ文人であったり、
またたとえば山間の滝や人家であったり・・・。
一幅の掛け軸など、いつも感心して見るのは、
筆使いだけでなく絵の背景に見られる余白の部分だった。

そこには何も描かれていなくても、
遥か遠くにかすむ山並みや、川の上流の景色や旅人の気配など、
空間の広がりや奥行きというものが感じられる。



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私は背景や画面全体を描きこむのが不得手で、
どちらかといえば抜けた空間が好きではあったのだけれど、
自分の絵の自信のなさは、ことに背景によく表れていたようだ。
師匠の灘本唯人先生に「こんなのは要りません」と
いったい何回指摘されたことだろう?
人物の脇や天にうっすら中途半端にひく壁や柱のような色、
・・・無用で無意味な背景。
そうして何年も何年も模索のくり返しである。

それが今回、向田邦子さんの世界を自分なりに描いてみている途中で
あるとき、はじめて気がついたのだった。
余分なものを削るには勇気が要るなあ〜。
・・・ハッとした!

ああ、そうか、余白には・・・、
余白にも、作者のエネルギーが込められているんだ。



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向田邦子さんの代表作のひとつ『あ・うん』。
戦友である水田仙吉と門倉修造、そして水田たみ。
この三人が醸し出す空気は本当に独特で、
「これはこれこれこういう物語です」とは
私などにはひと口に説明することができない。

そして、そんな三人を、すぐ脇から
自分の心の揺れのままに見つめる娘のさと子と、
三人の様子を見ながら、我関せず自我愛でいっぱいの仙吉の父の初太郎。

一人の人物にフッと現れる心のすき間や感情の揺れのようなもの・・・。
一枚の絵の描かれていない余白部分に
(文章の世界でいえば、それは行間にあたる部分かもしれない)
そういうものが自然に表現できるようになったらいいなあ〜。
奥行きのある余白・・・新しい課題のひとつである。


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Commented by 朋百香 at 2012-07-20 10:16 x
tomokoさま
う〜ん、一番難しいことですね〜。
見えないところ、一見何もないように見えるところって
実は深〜いんですよね。
私も何度も試して失敗しています(笑)これは、
ひとえに自分の技量のなさですが・・・。
でも人生を積み重ねてゆけば、自然にそれを表現
出来る日がくるのかもしれない・・・とも思ってます。
Commented by team-osubachi2 at 2012-07-20 18:44
朋百香さん
余白が生きるには、もちろんメインのモチーフに力がこもっていないとダメなんだてことも今回ようやく悟ったようなありさまでして〜(苦笑)。
最初から無意識としてそんなことがわかってて、また思いのままにそう出来ていれば、それはもう天才ですよね。凡才はグルグル回り道、山道、崖道、ひ〜ひ〜言いながら、それでも「いつかきっと」と前へ歩むしかないんですね〜・・・遠い目(笑)。
Commented by 風子 at 2012-07-20 22:40 x
こんばんは。

奥行きのある余白。
ん~、味のある言葉ですね。

私は画は書けないけど、、、生きることも そうなのかもしれませんね。
Commented by team-osubachi2 at 2012-07-21 00:05
風子さん
こんばんは。今日は涼しい関東です。そちらはいかがですか?

>生きることも そうなのかもしれませんね。
あ、そうかもしれませんね。
人に聞いた言葉ですけども「(人生や愛情も)時間の長さではなく深さだ」と。濃く、深く自分を生ききる。そんな心持ちで前へと歩んでいきたいものですね。
Commented by 香子 at 2012-07-21 23:20 x
背景は見る側に委ねる…っていうのもいいですね。
ちゃぶ台、茶箪笥、縁側からの景色…などなど
各人違ったイメージを持ってる気がします。
白地にそれぞれの背景をイマジネーションする。
描く側と観る側の共同作業で完成する絵ってどうでしょう?
Commented by team-osubachi2 at 2012-07-22 01:57
香子さん
いやあ~、余白は、これはもう見る人に委ねるしかないです。もちろん、モチーフ自体も見る人によって解釈は様々ですし~。
でも、見る人とモチーフとが対話をしてくれたなら、それはもう作者冥利につきますかね。
作者はただ無心にエネルギーを注いで描くだけであります~。
Commented by 櫻子 at 2012-07-23 23:44 x
実は、この割烹着の女性を母と重ねておりました。
私が小さい頃はいつも着物に割烹着でした。
女同士の打ち明け話など適わぬうちに亡くなりましたので、
若い頃の母もこうしてフッと考え込むこともあったろうな〜と。
向田作品とは少し違う昭和の背景が浮かんでいましたが、
そういう見方もありですよね?
Commented by team-osubachi2 at 2012-07-24 01:03
櫻子さん
先だっては暑い中をありがとうございました!お喋り、とても楽しかったです~。
もちろん、出来上がって出したものはもう作者の手を離れていますので、それを見る方が自由に感じるままに見ていただくのが一番と思っています。仕事だとそういうわけにもいかない場合もあるかもですが、挿絵ごっこですからコレ。
幼いころの記憶に、着物姿に割烹着だなんていいですねえ、ひところの昭和らしい景色なのかもしれないです。いまのそのおキモチ、お母さんは側で感じていらっしゃいますよ、きっと。
Commented by rito at 2012-10-24 10:38 x
はじめまして
着物に関することを調べていて、ちょうどこちらにゆき当たりました。ちがうページも見て、すてきな昭和風情の人物画だなあ~、向田さんの小説に出てきそうな、と思ってまた別のページを見たらなんと、「あ、うん」の文字が。吃驚しましたよ~いや私すごい、じゃなくて、それほど岡田さんの絵が表しているものが伝わってきたんです。着物のこととともに向田さんのこと、うれしかったです。
また個展が東京周辺であるのでしたら、ぜひ観に行きたいです。暑くない時期なら、着物で行きたいと思います。ご予定アップお待ちしています。
Commented by team-osubachi2 at 2012-10-24 18:52
ritoさん
はじめまして。コメントありがとうございます。
向田邦子さん、やはりお好きなのですか?今回の個展にはそんな方々がたくさん来られて、こちらは緊張もしましたが(笑)みなさんそれぞれに温かい目で受け容れてくださったようでありがたかったです。
そのさい、向田邦子ファンの多さ(男女問わずというところがさすがだなあ〜、って)も、好きの度合いも深くて、やっぱりスゴイ方だったんだなあ〜とあらためて認識しました。
いまはとくに個展の予定はないのですが、これからしばらくの間向田作品をちょっと離れて、来年はいろんな時代の女性を少し描き貯める予定です。またおいおいブログにもアップしていけたら、と思っています。
どうぞこれからも気長に、ときおり覗きに来ていただけましたら嬉しく思います〜。感謝。
by team-osubachi2 | 2012-07-20 00:23 | 人を描く | Comments(10)