「あけずば」でなく

南青山の一角にお店を構える『青山 八木』さんが
今の場所にお店を移すよりももっと以前、
緑の多い青山墓地にほど近いところに、
ごくごく小さな間口のお店を構えていらした頃、
たまたま取引先のすぐ側だったのを機に
何度か覗きにいって出会った帯がある。

無地の八寸・・・。
巻かれた状態ですでにふっくりとした厚みがあり、
広げて見れば、それはオフホワイトのような淡い色でありながら
微妙に何色かを発していて、太い糸で織られたラフな表面だのに、
きちんとした織り目にはひかえめながらツヤのある帯だった。
ひと目見るなり「なんて存在感のある帯だろう!」と強く惹かれた。

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「上原美智子さんという方の帯です」と八木さん。
「生成りに見えますけど、草木染めなんですよ。
現在はこういう感じとはまったく違う作風なんですが、
上原さんがむかし手に入れたままでもう使わない糸があったというので
お願いして織ってもらったものです」・・・というようなコトを
八木さんは言っていらしたように思う。
その帯は、当時でもとってもリーズナブルだったと思われるが、
残念ながら、自分の財布があまりに小さいために、
そのときはすっぱりとその場で諦めて帰った。

が、それからまたしばらくして、八木さんの展示会に行ってみたらば
もう一度その帯があるではないか!・・・あのときと同じ?
「いえ、あの帯は売れました。でもまだ糸があったので、
もう一回お願いして織ってもらいました」と八木さん。
そうか、じゃこれはもうこの先出会えないかもしれない・・・
と思ったらそれまでだ。頑張ってお嫁に迎える算段をした。

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正直に言えば、上原美智子さんのお名前はそれまでも知らなかったうえに
帯を買ったあともすっかり忘れてしまっていたのだが、
でもあるとき、雑誌で上原美智子さんの姿を見て思い出したのだった。
そうか、あの無地帯の作者はこの方だったのか・・・。

いつだったか、この帯を締めて出かけ、
自然食レストランでご飯を食べていたら、若い店員さんが
「これって帯ですかー?」はい、帯です♪
「え〜!こんな帯もあるんですか〜!?」
とびっくりしたような声を出して、まじまじと見ていた。
本当に世の中にはいろいろな織物があるんだなあ〜。

「あけずば」でなく_f0229926_87155.jpg

先日、NHKBSプレミアム「たけし アート☆ビート」で
たけしが上原美智子さんの工房を訪ねていたのを見た。
(このごろたけしは面白い人たちを訪ねてくれるので見ている。
絵画や彫刻だけでなく、宮大工の棟梁だったり、刀鍛冶だったり)
タテもヨコもお蚕さんが吐いたただ一本の糸をつむいで
目も神経もすり減るようなところを根気よく織り上げてできた
幅40cm長さ350cmの布の重さはたった3グラムだという。
一円玉わずか3個分!・・・想像がつかない。

蜻蛉の羽のように薄い織物・・・「あけずば織」というそうな。
なるほど、うちにある帯とはまるで性格の違っていそうな
透けるほどに薄いうすい織物だ。
テレビで見たその蜻蛉の羽のような薄い布子は
まるで“天女の羽衣”のようだった。

「無心になるっていうか、夢中になってて何も考えないときは、
波に乗るようにリズムにのって、ただ手が動いていくというのか、
それはとても気持ちのいい事なんですよ。
それがあるから、手織りがやめられないっていうか、
そういうのはありますねえ・・・」と
上原さんはたけしに向かってお話をされていた。

ただ一途に好きなことをやる人の姿はいいものだな〜と思う。
厳しくて尊くて優しくて、そして美しい。
上原さんは、今日も沖縄の空の下で機にむかい、
美しい布を生み出しておられることだろう。
Commented by sogno-3080 at 2011-12-17 08:17
こんにちわ。毎日楽しみに拝見させてもらっています。
今回のストーリーは何か、縁のようなものを感じました。
きっとお嫁に来る運命の帯だったのかも・・
そして、私も、レストランの若い店員さんと同じ感想。
こんな帯もあるのですね~!!です。
草木染めとのこと、地の色は何かしら、何で染めたのかしら?
色々と想像をめぐらせています。
この番組私も見ました。上原さん、なんだか神々しかったです。
そして美しかったです!
たけしさん、色々な方のところへ行ってくれるので、結構
好きな番組なんですよ。




Commented by やっぴー at 2011-12-17 10:17 x
糸の力を感じさせる帯ですねえ。
そしてクリスマスカラーコーデがかわいい♪
(三分紐のピンクがポイント高いですよね)
TVはあまり見られないけど、再放送があったら
家人に頼んで録画してもらいましょう。
機械オンチなのでDVD録画もできやしませんの(笑)
Commented by SAKURA at 2011-12-17 15:24 x
白い織の帯、さっくりとしてとても使いやすそうに拝見しました。
運命的な出会いだったんですね!Tomokoさんの着物の体験談はいつもステキで、読ませていただくのが楽しみでしかたありません。
「たけし アート☆ビート」は観たことがなかったんですが、面白そう。ぜひDVDセットして見てみようと思います!
Commented by team-osubachi2 at 2011-12-17 18:43
sognoさん
こんなにデコボコした糸って織りにくいんじゃないかと思うんですが、仕事の良さは締めてみればてきめんによくわかるのでした。私の手持ちの帯の中では一番締めているかもしれませんが、柔らかくなっても、しなるような張りはキープしたまんまでへたらないんです。スゴイなあ〜って思います。でも、今の相場からは考えられないくらい良心的なお値段でした・・・って、それすら私には一所懸命頑張らないといけないものでしたが ^_^;)もとは十分とりました。おばあさんになるまでいける帯です。
「アート☆ビート」面白いですよね〜。私も最近よく見ています〜♬
Commented by team-osubachi2 at 2011-12-17 18:48
やっぴーさん
おありがとうゴザイマス〜♪ 先日これでロートレック見に行ってきました。帯揚げ、最初は灰色のをしようかと思っていましたが、なんか気分イマイチで深緑にしてみましたらこちらの方が気に入りまして。
>機械オンチなのでDVD録画もできやしませんの
その分ほかでたちまわっておいでですから、いいんですて。^_^-☆
Commented by team-osubachi2 at 2011-12-17 18:57
SAKURAさん
無地の帯が好きなので何本かあるんですが、うちの箪笥組の中では一番活躍してくれている帯です♬ おたいこのところなんて、いまだにしなるくらいに張りがあって元気、まだまだ息長くつき合えるところがありがたい帯です〜。
「アート☆ビート」最初のころより今の方が興味の対象になる方々が多く登場されるので面白く見ています。
Commented by 神奈川絵美 at 2011-12-17 22:23 x
存在感のある帯ですねぇ・・・白なのに、ただの白と思わせない力があると思いました。
アート・ビート、オンデマンドで観られるかなあ。先日、思い出して上原さんの名前で検索したのですが、出てこなくて。

それにしてもレストランの店員さんの「帯ですか」にはちょっと笑ってしまいました。帯でなくて、何を巻いていると思ったのでしょうか。
Commented by すいれん at 2011-12-18 10:52 x
tomokoさん
いつだったか ざざんざ織りのきものに、この帯締めていらしたわよね。あの時からいいなぁ~と、思ってました。 上原さんの帯は私も一本持ってますが、その締めやすいことといったら・・・! 他の帯を締めるのが嫌になっちゃいそうで、怖いくらいです。軽くて、キュッと締まって緩まないけど、苦しくない。いつか、また欲しいな~と、思います。(アハハ、いつかな?) 
Commented by team-osubachi2 at 2011-12-18 22:07
絵美さん
オンデマンド、利用したことがないのでわからないんですが、見られる期間って決まってるんですかね?見られるといいですけども。
>レストランの店員さんの「帯ですか」には・・・
もう10年くらい前の話なんですが、いえね、この店員さんはおそらく帯のテクスチュアそのものに感嘆の声をあげたんだと思いますですヨ。
上原さんをはじめいろ〜んな作家さんの作品や、産地本場の染織ものって、かなり着物世界の深みに身を投じないとなかなか触れる機会があるものではありませんもんね。自分がまったくの初心者のころを思えば、この店員さんはなかなかいい感性を持ってるな〜なんて思いました。
Commented by team-osubachi2 at 2011-12-18 22:11
すいれんさん
さいです〜♪ すいれんさんのおみ帯もいい色味で、凝った織りで、ホントに締めやすそうですよね♬ こんな使い勝手がよくて締めやすい帯、たしかにいつかまた欲しいって思っちゃいますですね。いやあ〜、以前よりも甲斐性なしの現在です。安物買いしてばかり・・・をちょこっと反省したりもしますが、やっぱりない袖は振れませ〜ん!(笑)
by team-osubachi2 | 2011-12-16 13:10 | 着物のこと | Comments(10)

イラストレーター岡田知子の、暮らしと、着物と、お絵描きの日々


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